長い城壁に囲まれた敷地内の東の端にある石造りの塔は、どう見ても500年は昔に建造されたもののようだった。
おそらく、長い間打ち捨てられていたのだろう。入り口に続く小道以外の塔の周辺は、刈り取られたこともないように背の高い雑草が密集していた。
人が住むためのものではなく、戦時の物見用、もしくは特別な罪人を閉じ込めるために作られた石牢──といった風情だった。

樫の木の扉を開けて中に入ると、塔の内部は1階から最上階5階あたりまでが吹き抜けになっていた。
最上階に小さな部屋が幾つかあるらしい。
壁のあちこちにある明かり取りの小窓から、陽光が帯のように塔の内部を照らしていた。

「公爵様──ヒョウガ!」
城内の者や領民たちに自らにかけられた呪いの事実を隠しているのでないのなら、何もこんなところに潜んでいることもないだろうにと思いながら、シュンはヒョウガの名を呼んだ。
塔の上の方にいたらしい白鳥が、すぐにシュンのいるところまで飛んでくる。
白鳥の姿をしたヒョウガに駆け寄ろうとしたシュンは、そして、そこで、異様なものを見ることになった。

ヒョウガに少し遅れて、翼のある白い馬が──ペガサスが──シュンの前に飛びおりてきたのである。
驚き、目をみはったシュンは、ペガサスが飛んできた塔の上部に視線を投げ、更にそこに、ドラゴンとフェニックスの姿を見い出した。
「う……わ……!」

こんな打ち捨てられた塔に隠れていなければならないはずである。
そこには、伝説上の──想像上の生き物たちが──生きて、動いていた。






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