「俺は腹がへっているわけじゃない」
瞬と星矢の姿がラウンジから消えると、俺はやっと自分の言いたいことを自分の使いたい言葉で言うことができるようになった。
「まあ、そうだろうな」
紫龍が、訳知り顔で頷く。
こいつは、俺が本当にしゃぶりたいものは瞬の指なんかじゃないことも承知してるだろう。

紫龍に本当のところを言ってみたところで、何がどうなるものでもないことは、俺にもわかっていた。
ただ俺は、腹がへるどころか、腹の中にたまりにたまった鬱憤を、少しばかり外に出してしまいたいだけだったんだ。
だから、そうした。
「瞬が二度目をやらせてくれないんだ! アレがそんなに気に入らなかったようでもなかったのに、そんなに嫌がってたとも思えないのに、いや、むしろ──」

むしろ、瞬は悦んでいるように見えた。
瞬は、俺に与えられる苦痛にすらうっとりしていた──ように見えた。
そんなはずはないのに。
俺とのそれは、瞬にとっては、ていに言えば、痛いだけのものだろう。
瞬は健気にもそれに耐えていてくれるんだ。

初めて触れた瞬の肌、声、仕草──を俺は思い出した。
あの夜の瞬は、確かに最初のうちは恥ずかしがっていたし、緊張もしていた。
でも、すぐに俺の愛撫の意図を理解して、それをどう受けとめればいいのかも覚えて、あの白い腕と指を俺に絡ませてきてくれたんだ。
確かに、俺が中に入ると苦しそうにしていたが、俺にはその表情すら新たな刺激剤として作用するものだった。

──マズい。
俺は、幸福の極みだった夜の瞬の様子を思い浮かべるのを、そこで中断した。
そんなことを思い出して一人悶々とするのは、夜だけで十分だ。

と、その時、唐突に。






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