『大変よくできました』と言わんばかりに唇から微笑を零れさせて、瞬は俺に頷いてみせた。 「そう。最初からそう言えばよかったの。僕は、氷河が何も言ってくれないから、氷河はそういうことにあんまり執心するタイプじゃないんだろうって思ってただけなんだから。氷河が乗り気でないのに、無理矢理そんなことさせるわけにはいかないでしょ」 瞬が何か言ってる。 身体の奥から湧き起こってくる熱の塊りのようなものに耐えながら、俺は自分の思考力を自分のもとに引きとめておこうと、必死になっていた。 俺がそういうことに執心しない男だなんて、どうすればそんな考えが湧いてくるんだ。 男なら誰でも──いや、確かにどんなことにでも例外というものはあるだろうが、どうして瞬は、俺がその例外だと思い込むことができたんだ。 ──答えはわかっていた。 俺が言葉ではっきりと、瞬にそれを求めなかったからだ。 「氷河にそうしたいって言われたら、僕が氷河の望むとおりにしないでいることなんてできるわけないのに」 「……言えなかったんだ」 俺の額には脂汗がにじんでいた。 確かに発情期でもないパンダが大格闘を始めるだけのことはある。 媚薬の効果は、俺の想像以上に強力だった。 「どうして?」 苦しんでいる俺に、瞬が容赦なく、だが優しく尋ねてくる。 「あれは、おまえには……痛いだけのものだろう」 「? どうしてそんなふうに思ったの。そう見えた?」 「いや……」 見えなかったから、俺は期待したんだ。 瞬との二度目。そして、三度目以降を。 瞬が、俺の矛盾した返答に首をかしげる。 「氷河は、自分の目が見たものを信じないの」 信じたかったさ。 あたりまえだろう。 だが、そんな楽観的な期待は危険なだけだ。 何もかもすべてが、そんなに俺に都合よく運ぶはずがない。 「おまえは、俺のためにわざと──」 「わざと気持ちいい振りをしていたとでも思ったの? 馬鹿みたい。あんな痛いこと、演技ででも気持ちいい振りなんかできるわけないよ」 ああ、やっぱり。 「やっぱり痛かったんだろう……?」 「そうだよ。でも、その100倍気持ちよかった」 瞬は爪先立って、俺の耳許に唇を近付け、そう囁いた。 瞬の手が俺に触れる。 アフロディーテの薬の壜をこの手にした夜、俺が考えた通りの場所に。 俺はどうにかなってしまいそうだった。 いや、もうどうにかなっていたのかもしれない。 「なぜ」 自分の声がひどく乾き掠れていることに、俺はその短い疑問詞を口にして初めて気付いた。 「そんなこともわからないで、僕にあんな乱暴なことしたの」 瞬が微笑っている。 薬のせいじゃない。 俺の 乱暴にしたつもりはなかった──なんて、反論する余裕はなかった。 俺の忍耐力が臨界点を超える。 頭の中が真っ白になり、次の瞬間、俺は瞬を組み敷いていた。 |