「俺たちが城戸邸を出る直前に、修行地を決めるくじ引きをしただろう。おまえが、生きて帰ってきた者はいないっていうデスクイーン島のカードを引いた時、俺は、おまえの代わりにその地獄の島に行こうと思ったんだ。そう言おうとしたら、一輝が俺の邪魔をしやがった……!」

忌々しげに(真顔で!)そんなことを言う氷河の前で、僕は一瞬、虚を衝かれたような気分になった。
……なんだろう、それ?

「そんなこと……が?」
でも、“そんなこと”が本当に、氷河言うところの“復讐”の直接原因だったらしい。
氷河は、いつまで待っても、僕が期待した『冗談だ』の一言を、“そんなこと”の後に言い足してはくれなかった。

確か──あの時、僕は、持ち前のくじ運の悪さを発揮して『デスクイーン島』のカードを引いた。
辰巳さんが、あの島の過酷な自然環境と、それからあの島から生きて帰ってきた者はいないという話をして、それを聞いた兄さんが僕の代わりにその島へ行くと言い出した──。

「仕方なく、俺はシベリアに行って、白鳥座の聖闘士の聖衣を手に入れるべく修行を開始したが、あの時一輝に出し抜かれた無念は片時も忘れられなかった」
氷河は心底から悔しそうに、馬鹿げたことを語り続ける。
僕は──そんな氷河に何て言えばいいのか皆目わからなかった。

でも、だって、それは氷河にとっては幸運なことだったはずだ。
北の国で幼年期を過ごしてきた氷河には、赤道直下の灼熱の島より、シベリアの方がずっと過ごしやすかったはずだし、その白い大陸で氷河は師匠にも友人にも恵まれていたと聞いた。
何より、東シベリアは氷河のマーマの眠る場所。
氷河にはゆかりのある場所じゃないか。
でも、氷河には、それとこれとは全く違う次元の問題だったらしい。

「一輝がその島で死んでいてくれたら、俺も復讐なんて考えもしなかったさ。いや、復讐したくても、その相手がいないんじゃ話にならない。だが、奴は帰ってきた。しかも裏切り者として。そうして、おまえを悲しませた」

僕を悲しませた──って、それがどれほどのことだっていうの。
氷河は、氷河の訳のわからない復讐の原因と責任を僕にまで負わせるつもりなの。
そんなの御免だ。

兄さんが敵として僕の目の前に現れたことを、確かに僕は悲しんだけど、でも、兄さんは生きていてくれたんだよ!
復讐相手が生き返ってきてくれたことを喜んだ氷河の100倍も、あの時僕は心を安んじていた。
悲しかったけど、それでも──嬉しかったんだ。






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