以下が、氷河の手になる“詩”である。
タイトルは、『嘆きの納豆汁チップス』。



弊社のふしまつ。
お客さま、株主さま、お取引先さま、各販売店さま、関係者のみなさまがたに。
おわびを。
ふかくふかくおわびを申しあげます。

みなさまがたに。
多大なるご迷惑とご心配をおかけいたしました。

ご叱責。
ご激励。
を、多くのみなさまから賜りました。

多大なるご迷惑とご心配をおかけした、
みなさまがたに。

不良品の回収取り替え。
はもちろん。
前にも増して厳しい商品管理体制のもと。
全社員が一丸となって。
名誉と信用の回復に努め。
邁進したい
そうしたい

伏して、おねがい申しあげます。
伏して、おねがいいたします。

今後とも。
なお一層のご指導。
ご鞭撻を。

多大なるご迷惑とご心配をおかけした、
みなさまがたに。
伏して、おねがいいたします。

ごめんね。


体言止め、倒置法、句点の多用、無意味なひらがな表記、不要なフレーズの反復、文体の変調、そして、一文を極力短く。
それは詩作というよりは、むしろオンライン小説(別名『壺ポエム』)の技法だったのだが、ともあれ氷河は、その“詩”をものの3分で作ってのけたのだった。

氷河は、自分の詩才に満悦至極である。
「どうだ。色気もくそもない定型文の詫び状が、ちょっと手を加えただけで、あっという間に、自分に酔った一遍のポエムだ」
「…………」

それを“詩”と呼んでいいものかどうか──を、瞬には判断することができなかった。
詩には、確かに、伝統的な詩の韻律形式にとらわれず、自由な内容や形式で作る“自由詩”というものが存在するし、氷河の詩を詩でないと断じる根拠を瞬は持たない。
ただ、これを詩と主張することで、JAROに訴えられるようなことになったらどうすればいいのかと、瞬はそれだけが心配だった。






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