まもなく冬が終わり、春が訪れるだろう季節。 その夜、城戸邸の周辺では、まるで行く冬を惜しむかのようにささやかな雪が舞っていた。 「瞬が……おまえを好きなんだそうだ」 「急に、なに言いだしたんだ? 改めて言われなくても、んなこと知ってるし、俺も瞬、好きだぜ〜?」 自分の恋と人生を諦める覚悟で氷河が告げた言葉に、星矢が死ぬほどノンキな答えを返してくる。 「瞬は、おまえと違って可愛いし、紫龍と違って俺をガキ扱いしねーし、一輝と違って依怙贔屓しねーし、俺も瞬ちゃん、だーい好き」 星矢は、氷河が口にした『好き』という言葉の持つ重みにも意味にも、まるで気付く気配がない。 そのふざけた口調と態度に、氷河は、腹立たしいほど幸運なこの仲間を、半ば本気で殴ってやろうかと思った。 「そういう意味ではなく……」 こんな鈍感な相手に恋をした瞬が、哀れを通り越して不幸に思えてくる。 自分の体内で暴れている苛立ちと怒りを──それらの感情が誰に向けられたものなのかは、氷河自身にもわかっていなかったが──氷河は、必死に抑えていた。 「大好きなら気付いているだろう。このところ、瞬がおまえのせいで毎日おどおどして落ち着かない様子でいることに」 「へ? おどおど? 何でだ?」 星矢は本当に瞬の変化に気付いていないらしい。 氷河は本当に、力の加減なしに星矢を殴りたくて仕方がなかった。 「──瞬はおまえに恋をしているんだそうだ」 こういう鈍感な輩には、婉曲的な言いまわしを避けて、真正面から事実を突きつけるしかない。 氷河は使いたくない単語を用いて、ごく端的に、その腹立たしい事実を星矢に告げた。 告げられた星矢が、一瞬、ぽかんと毒気を抜かれた顔になる。 『恋』なる代物が、食べ物だったか、それとも動物の名だったかをド忘れした──と言わんばかりの顔だった。 約2分の時間をかけて、なんとか星矢は、その単語の意味するところを思い出したらしい。 思い出した星矢が、だが、決死の覚悟の氷河の前で、また能天気この上ない表情になる。 そして、星矢は、それは自分には何があっても関わりのない単語だと信じきっている口調で、氷河に言った。 「氷河。おまえ、瞬が一向に色気づいてくれないせいでトチ狂ったのか? 瞬に惚れてるのはおまえだろ?」 「そうだ。そして、瞬が惚れているのは、星矢、おまえだ」 「…………」 氷河が真顔を崩さないので──星矢はやっと──しぶしぶ──事の重大さを認識せざるを得なくなったようだった。 そうなってもやはり、星矢の表情には緊迫感も切実感も、まるで浮かんではこなかったが。 |