「俺……誰かに惚れるのに、瞬より面倒な人間なんてこの世に存在しないと思うんだけど……」
瞬の頬をぴたぴたと叩きながら泡を食っている氷河の姿を眺めながら、星矢がしみじみした口調で呟く。
「若い頃の苦労は買ってでもしろと言うが、氷河もでかい面倒をしょいこんだものだな」
紫龍もそれには同感だった。

「それでも当人たちが幸せなのなら、他人がとやかく言うことではないわ。人の幸せは人それぞれよ」
あまり一般的ではない幸せを満喫している氷河と瞬の様子を見て、沙織は聖域への援軍派遣を見送ることにしたらしい。
彼女は、その場にいた唯一の一般人に帰社を命じ、命じられた一般人は、
「聖闘士稼業も大変ですね」
の一言を残して、その場から立ち去っていった。


――幸福になることを望みさえしなければ、人生はさほど面倒なものではないのかもしれない。
それでも時に思いがけない幸運に巡り合うことができるから、あるいはその手で幸福を掴み取るために、人は 面倒ばかりの己れの人生を懸命に生きることをするのだ。
この面倒な結末も、今の氷河と瞬にはハッピーエンドなのに違いなかった。






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