いかに感情表現が素直で豊かでもシュンは機械にすぎないという事実を氷河が思い知らされたのは、シュンが城戸邸にやってきてから三ヶ月後。
青銅聖闘士の面々が、沙織と共にギリシャに向かうことになった初春だった。

有事による急行というわけでもなかったアテナの聖闘士一行は通常の旅客機でギリシャに向かったのだが、その際にシュンは体内電池を抜かれ、一個の荷物として旅客機の貨物室に積み込まれることになったのである。
たった今まで自分の足許にまとわりついていたシュンが、突然物言わぬ物体になってしまったことに、氷河は言いようのない不安と不快を覚えた。

氷河のその不安は、人間の瞬に、
「シュンは ただ眠ってるみたいなものだよ」
と言われても消え去らず、聖域に到着後、再度体内電池を汲み込まれたシュンが身体を起こし、氷河の許に駆け寄ってくるまで続いたのである。

そして、春のギリシャで、事件は起こった。





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