瞬が目覚めると、瞬の横に氷河はいなかった。
いつもなら必ず隣りにある温もりが、瞬の身体のどこにも触れない。

(あんなことで本気で怒っちゃったのかな……。もう、大人げないったら)
陽光はまだ、さほど室内を暖めていない。
いつもの起床時刻には少し早いようだった。
だから瞬は、目を開けずに、氷河がいたはずの場所に身体を寄り添わせ、閉じていた瞼を更に固く閉じた。
いつもの時刻になるまで、瞬はもうしばらく惰眠を貪っていたかったのである。

身体のあちこちが──特に下半身が──鉛の塊りを置かれたように重くて、意を決しなければ起き上がれそうになかった。
昨夜の氷河が、二人が楽しむためにではなく、彼自身の苛立ちを静めるために瞬の身体を利用したことは明白である。
実際昨夜の彼は、瞬の身体を気遣う様子を全く見せず、幾度も力任せに瞬の中に押し入ってきた。

が、そんな時がこれまで一度もなかったわけではない。
むしろ、瞬は氷河のそういうやり方に慣れていた。
氷河も、いつも優しい恋人ではいられないのだ。
彼は人間なのだから。

しかし、そんな乱暴を働いてしまった翌朝は、氷河は大抵、瞬に軽く謝ってからベッドを出るのが常だった。
内心では相当の自己嫌悪に苛まれているらしいのだが──氷河の謝罪はいつも簡単なものだった。
それが、事態を深刻なものにしてしまわないための、氷河の姑息な──そして、可愛い──計算だということを、瞬は知っている。

だが、今、氷河は瞬の横にいない。
つまり、氷河は、自分が いつも通りの軽い謝罪では済まないほどの乱暴を働いてしまったと思い込んでいる──のだろう。
瞬はそう思った。
(早く氷河をつかまえて、許してあげなくちゃ)
身体がつらいからといって、いつまでも惰眠を貪っているわけにはいかない。
身体ほどには、瞬の心は重くなかった。






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