ペルセウス──大神ゼウスの子にして、ギリシャ神話最大の英雄の一人。 絶望という名の鎖に縛りつけられていた王女アンドロメダの前に、高く青い空の中から突然現れ、彼女の鎖を断ち切った若き勇者。 氷河は決してペルセウスのように瞬を救うことはできなかった。 瞬は自らを縛る鎖を自らの力で断ち切った。 「俺は何も……おまえはおまえ自身の力で──」 瞬が眩しく見える訳を、氷河は理解し始めていた。 瞬自身が希望を抱いているから。 そして、そんな瞬に、自分が希望を抱きかけているからなのだ、と。 勝手にそんな希望を抱いてはいけないのだと――氷河は、自らを戒めるために卑屈になった。 瞬が、その卑屈を遮る。 「こんなことに負けずに頑張って生きて帰ったら、氷河はどんなに喜んでくれるだろうって考えたら、わくわくして楽しくなって──僕は、あんなに生きたいと思ったのは、あの時が初めてだった。僕は――」 噛み締めるように言葉を紡いでいた瞬が、ゆっくりと顔をあげる。 氷河の視線を捉えた瞬の瞳は、これ以上ないほどに輝いていた。 「生きてることが喜びだと思わせてくれる人がペルセウスで、僕に夢と希望をくれる人が僕のペルセウスなんだって思ったんだ」 「…………」 瞬は何を言おうとしているのだろうと、それでも氷河は困惑していたのである。 希望を――抱いていいのだろうかと、氷河はそれでも迷っていた。 瞬が、その困惑と迷いを吹き飛ばす。 「氷河が、僕のペルセウスだったんだね」 微笑む瞬にそう言われた時、誇張ではなく氷河の心臓は一時 活動を忘れてしまったのである。 瞬だけでなく、世界が輝いて見えた。 これまで見えていなかった世界中の光がすべて、突然 姿を現したかのように。 これが世界の真実の姿なら、これまで自分が見ていた世界は夜の闇に沈んだ世界だったに違いないと確信できるほどに。 不思議に、瞬を抱きしめたいという思いは湧いてこなかった。 いつもそうすることを、そうできる自分になることを望んでいたというのに。 氷河は、代わりに、決死の思いで口を開き、掠れた声で瞬に告げた。 「俺のペルセウスはおまえだ」 世界中の光、世界中の輝き。 氷河にとって、それらはすべて瞬が彼に与えてくれるものだった。 そうだったのだと、氷河は初めて明確な思惟として、その事実を認識した。 氷河の言葉に 一瞬きょとんとしたように瞳を見開いてから、シュンが微かに頬を上気させ、小さな声で呟く。 「そうだったら嬉しい」 そうしてふたりは、光り輝くものを互いの手に掴みとった。 Fin. |