そんなある日のこと。
カミュ国王は、北の国の都の郊外にあるダイヤモンド鉱山に視察に出掛けました。
そして、その鉱山の麓の町にある小さな工場で、目が覚めるような美少女を発見したのです。

その工場は、鉱山から出た屑ダイヤを国内市場向けの安価なアクセサリーに加工するための工場で、カミュ国王が発見した美少女は、工場の片隅で屑ダイヤを大きさや色で選り分ける仕事をしていました。
相当貧しい暮らしをしているらしく、その美少女は暗褐色の古ぼけた男物の服を身に着けて、地味な仕事を地味な様子で地味ながらも熱心にこなしていました。
そして、その美少女が美少女だということに、周囲の人間は全く気付いていないようでした。

けれど、カミュ国王は、なにしろ世界一のダイヤ産出国の国王です。
光り輝くものは見慣れていました。
磨けば光るものを見分ける目を持っていたのです。
カミュ国王の目に、その地味な美少女は、カミュ国王がかつて会ったどんな王女や大貴族の令嬢よりも優れて美しく見えました。

その時です。
カミュ国王が素晴らしい名案を思いついたのは。
古い男物の服を着ているせいでどことなくボーイッシュな美少女の勤労する姿を見詰めていたカミュ国王は、遠い東の国に伝わる有名な故事を思い出したのです。

その昔、北の国から遠く離れた東の国に、やはり女嫌いの王子様がいたのだそうです。
その王子様の女嫌いを治すために、王子様の乳母は、一度は女であることを捨てた女性──尼さん──を女嫌いの王子様の側にはべらせることを思いつきました。
普通の女性とは違う無性むせいの雰囲気を持った尼さんに、東の国の王子は興味を持ちました。
そして、それをきっかけに女性全般への関心を抱くようになった王子様は、やがて見事に世継ぎの君をもうけたと言われています。

女嫌いの王子に女らしいお姫様を引き合わせるから、事がうまく運ばないのです。
高貴な血筋や 北の国の未来の王妃にふさわしい家柄、ついでに人柄。
そういうものを知る前に、氷河王子はその姫君に女だというだけで、さっさとNGを出してしまうのです。
けれど、それが男装の麗人だったらどうでしょう。
希代の女嫌いの氷河王子とて、男の格好をした者を最初から毛嫌いすることはないに違いありません。
少なくとも、それは、試してみる価値のある実験だとカミュ国王は思いました。


「あの者をここへ」
カミュ国王は、視察に来た国王のために用意されていた貴賓室に、早速地味な男物の服を着た美少女を呼びつけました。
呼ばれた美少女の名前は、改めて紹介するまでもないでしょうが、瞬といいました。

この国でいちばんの権力者のお召しにびくびくしながら、瞬はカミュ国王の前に進み出ました。
その瞬を、カミュ国王は、遠慮のない視線でしっかりじっくりじろじろと観察しました。

カミュ国王が目をつけた少女は、その貧しげな服装はともかく、近くで見ると、ますますとんでもない美形でした。
やわらかな髪、大きく澄んだ瞳、なめらかで白い肌。端正でありながら、人を拒む冷たい印象がなく親しみやすい表情と雰囲気。
とんでもなく可愛らしいのに、女性らしくないところが何とも言えません。
女嫌いの氷河王子と付き合う最初の女性として これ以上の相手は他にいないだろうと、カミュ国王は確信したのです。



■ 東の国の王子様:徳川家光 



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