この世界でなら、瞬と寝ることもできるかもしれない――。 ほとんど味のわからない朝食を済ませて自室に戻った氷河の中に、ふと湧いてきた考えがそれだった。 “瞬”は、朝食を終えると、それが当たり前のことのように氷河と共に氷河の部屋に戻ってきて、氷河が今朝醜態を演じたベッドを椅子の代わりにしている。 今、この瞬の肩をシーツの上に押しつけたなら、この瞬は抗いもせずに――むしろ喜んで――氷河の背に腕をまわしてきそうだった。 そうしてしまっても、この瞬は、自分にのしかかっている男が 自分の思っている男ではないことになど気付きもしないだろう――と、氷河は思ったのである。 氷河はごくりと息を飲んだ。 あの白い背中に唇を押し当て、舌を這わせ、そのまま “氷河”を受け入れ慣れているらしい瞬の中に押し入る。 自分が違う男の名を呼んでいることを気付かせぬまま、この瞬を幾度も犯してやったら、その事実を知ったら、この世界の氷河はいったいどういう顔をするのだろう――。 異常な状況の中で、氷河は、まさに異常なことを考え始めていた。 自分がそんなことを考えているのは、昨夜の瞬の涙を思い出したくないせいなのだということに、氷河は不幸にもすぐに気付いてしまったのだが。 そして、“この世界の氷河”のことにも。 この世界には、当然、この世界の氷河がいたはずである。 彼はいったいどこに行ってしまったのだろうか――? という疑念に突き当たった途端、氷河の背筋を冷たいものが走った。 もしかしたら彼は、“俺の瞬”のところに行っているのかもしれない――。 その可能性に、氷河は気付いたのである。 それは決してありえないことではなかった。 そこで、“瞬”に素っ気無くされた彼が、“瞬”はただ遊びで拗ねているだけなのだと誤解して、無理矢理“瞬”と事に及ぼうとしたりしないと、いったい誰に言えるだろう。 そう思った途端、氷河は初めて、自分がとんでもない窮地に立たされていることを自覚したのである。 戻らなければならなかった。 どうしても――何を犠牲にしても、一刻も早く、彼は彼の瞬の許に戻らなければならなかった。 |