日本人が勤勉だという神話は、完全に過去の伝説になりさがってしまったわけでもないらしい。
翌日も、その弁護士は氷河の許にやってきた。――今度は通訳を伴わずに。
そして、昨日同様、氷河が相続することで得られる金銭的な得分のことばかりを語って、氷河の意思を変えようとした。

だから氷河も告げたのである。
目先の金に目をくらませて学業を中断させることの不利益を、冷静に。
氷河はいずれにしてもシュコールを卒業するまで故国を出る気はなかった。

結局、わざわざ日本からやってきた弁護士は、氷河の固い意思を曲げることができず、そのまま帰国の途に着いたのである。






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