氷河は、瞬の優しさや親切が嘘だとは思わなかった――嘘でもよかったが。
瞬はそうせざるを得ないように――思い遣りに満ち、素直で優しい子供として存在しなければ生きていられないような人生を強いられてきたのだから。
一見 優しさに見える彼の振舞いが偽物にすぎなかったとしても、誰に責めることができるだろう。
少なくとも氷河は、瞬を責める気にはならなかった。
自分のそんな甘さを、『恵まれている』とさえ、氷河は思った。


瞬の告解の翌日から、氷河は、徒労に終わるかもしれないと思いつつも、瞬が肉親に愛されていた証拠を探し始めた。
日本に知己はなく、氷河が当たることができたのは、出来の悪い息子に苦労させられているという例の弁護士や、瞬の母親の実家の関係者だけだったが。

瞬の母親は外面そとづらだけは良かったらしく、対外的には瞬は 彼女の自慢の息子ということになっていたようだった。
しかし、氷河が訪ねた人々は、その事実を告げたあとで必ず、
「でも、彼女にとっては、実の息子も我が身を飾るアクセサリーの一つに過ぎなかったんじゃないかしら」
という類の感想を付け加えてくるのである。

氷河の望むものは簡単には手に入りそうになかった。






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