――不安が募りすぎて、瞬が心身にだるさを覚えるようになっていたのは事実だった。 その夜、いつものように瞬の部屋にやってきた氷河に、瞬は、ほんの一言二言の言葉の交歓もなく抱きしめられた。 そして、氷河の手が、ボタンのついたシャツを身に着けている瞬に苛立ったような所作で、それを外しにかかった途端、瞬の瞳から涙が零れ落ちた。 「瞬……?」 その夜初めて、氷河が口を開く。 彼は、瞬が泣きだすようなことをまだ何もしていないつもりだったに違いない。 まるで訳がわからないと言わんばかりの顔で、氷河は瞬の顔を見おろした。 だが、実は、その場では、氷河よりも当の瞬自身の方が、勝手に零れ落ちた涙に驚いていたのである。 瞬は慌てて、その場を取り繕った。 「ご……ごめんなさい。僕、今朝から具合いが悪くて、ちょっと熱っぽくて、な……なんか、いつにもまして涙腺が弱くなってて――」 零れ落ちた涙は、自分でも思いがけないものだったが、瞬にはその理由がわかっていた。 しかし、まさか、正直に氷河に言ってしまえるわけがないではないか。 『氷河が僕の側にいてくれる理由と目的は、セックスだけですか』 などという馬鹿げた――そして、みじめな疑念を。 「だ……だから、あの、今夜はあの……僕、風邪ひいてるのかもしれないし、氷河にうつしたら大変だし――」 氷河の機嫌を損ねることを危惧しながら、瞬は恐る恐る彼に告げたのである。 が、氷河は、機嫌を損ねるどころか、すぐに瞬の腰にまわしていた腕を外し、気遣わしげに瞬の顔を覗き込んできた。 「具合いが悪いのなら、先にそれを言え! 横になっていなくていいのか? 熱はどれくらい――」 そう言いながら瞬の首筋に手を当てて、氷河は僅かに顔をしかめた。 氷河に嘘をついている緊張のせいで、瞬の身体は確かに熱を持っていた。 氷河が問答無用で瞬をベッドに運ぶ。 そして、しかし、彼はいつものように瞬の上にのしかかってはこなかった。 それは病人に対する ごく普通の対処だったのだが――瞬は、その“普通の対処”をひどく意外に思ったのである。 「熱だけか? 他に痛むところはないのか? 咳は?」 「す……少し だるいだけ」 「夏バテには早すぎるような気もするが……」 氷河はそれを仮病だとは露ほどにも疑っていないらしい。 彼は心底から心配そうに――そう見える表情と声とを、瞬に向けてきた。 こういう時、以前の瞬なら、たとえ瀕死の重傷を負っていたとしても、彼の心配を和らげるために無理にでも笑顔を作っていただろう。 氷河の瞳が明るく輝いていること、その瞳に見詰められていること――が、瞬には、他の何物にも代え難い幸福だったのだ。 ――以前は。 今は、そうではない。 瞬の胸深くに根付いてしまった不信は、もはや そんなことでは拭い去れなかった。 氷河が自分の身を気遣ってくれるのは、健康な相手と あの交わりを交したいと思っているからなのだと、ただそれだけのことなのだと、瞬は思った。思わずにいることができなかった。 「喉がちょっと痛い。やっぱり風邪だと思う。大したことはないから、しばらく横になってればきっと……」 暗に氷河との |