「あの……僕、何か仕事をしたいんです。できれば、その仕事の後にはくたくたになって疲れて眠るしかないような、うんと体力を使う仕事を」
幸い、瞬には、就職を望む時、職安に求人カードを提出しなくても、その世話をしてくれる心強い味方がいた。
言わずと知れた、グループ社員数30万を超える複合企業体コングロマリットグラード財団の総帥 城戸沙織、その人である。

「何か欲しいものでもあるの?」
「え?」
瞬の希望を聞いたグラード財団の総帥は、だが、最初は瞬の勤労意欲をさほど重大な問題とは考えてくれなかったらしい。
仕事に就きたいと願い出た瞬に、彼女は、
「バイト代で何かを買いたいのじゃなくて?」
などという、太平楽を極めた質問を返してきたのである。

「いえ、お給料とかはいらないんです。ただ、他のことを考えなくて済むような何かをしたいだけで――」
誤解を解くために瞬が重ねて告げた言葉を聞いた沙織が、初めて微妙に深刻そうな顔になり、考え込むような素振りを見せる。

「くたくたに疲れるような仕事と言っても、仮にも聖闘士をそんなに疲れさせるような仕事なんて、そう簡単には――。ビルの建設現場で鉄筋を運ぶような肉体労働をしたって、あなたは疲れたりしないでしょう?」
「それでいいです!」
それが、普通の人間が最も疲れるような仕事だというのなら、瞬はぜひともその仕事に従事してみたかった。

「それでいい……って、土木建築現場の仕事?」
「はい!」
「はい……って……」
沙織はあまり気が乗らない様子だったが、『理由は聞かずに仕事を与えてくれ』と食い下がる彼女の聖闘士の願いを、結局彼女は叶えてくれたのだった。






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