それから1週間後の夜は満月だった。
その頃には既に、それこそ欠けていた月が満ちるように、氷河と瞬は以前の状態に戻っていた。
自分たちが何事かを忘れていたことにも気付いていないらしい二人は、忘れものを取り戻したことによって、その親密さの密度を従前の二重二倍のものにしている。

「時々 勝手にいちゃついてろとか思うこともあるけどさ、やっぱ、この方がいいよなー」
月見団子をぱくつきながら、星矢が楽しそうに言う。
氷河と瞬が近くにいるだけで伝わってくる甘い空気を、今更鬱陶しいと感じる星矢と紫龍でもない。
なにしろ、星矢と紫龍にはその状態が常態だったのだ。
彼等は、慣れ親しんだ空気を再び身近に感じられるようになっただけなのである。

「全くだ」
紫龍は月見団子を手に取る前に、一応 今夜の主人公の立場を立てて、視線を秋の夜空へと投げかけた。
ラウンジから続くバルコニーの向こうには、ほぼ真円の形をした月があって、僅かに黄味を帯びた温かい光を地上に向けて放射している。


他者に心を伝える術と意思の力を持つ人間が、自分の欲しいものをその手に掴み取ることができるのは当然のことである。
空にただ自然に存在する月ですら、欠ければ満ちてくるのだから。






Fin.






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