一方、コンピュータールームの別の一画では、ちまくない氷河と瞬によって、もう一つの いさかいが発生していた。

「僕、あんなこと言わないよ!」
「いや、おまえは言いかねない」
「氷河に死んでほしくないから、言うだけは言うかもしれないけど、しないよっ!」
「おまえがしなくても、一人になったおまえに目をつける不届き者はきっと出てくる!」

氷河の断固とした決めつけに、瞬は言葉を失ってしまったのである。
その“不届き者”に、氷河が女性を想定していないことがわかるから、瞬は複雑極まりない心境に陥っていた。
が、氷河は、自分が瞬を侮辱していることなどには全く気付かず、自身の決意に燃えるばかりである。

「俺は死なんぞー! 永遠に死なん! 死んで……死んでたまるかっ、瞬の××に○○していいのは俺だけだっ!」
「氷河ってば、僕の話 聞いてよっ」
瞬は必死に氷河に訴えたのだが、助平心に支配された氷河は――もとい、苛烈な愛情に支配された氷河は――愛する瞬の言葉にすら耳を傾ける気配を見せようとはしなかった。


意外な事実ではあるが、グラード財団総帥と白鳥座の聖闘士は、その根本にあるものが完全に同じだったのである。
美しい言葉で表現するなら、それは“信念”というものだったかもしれない。

コンピュータールームのあちらとこちらで燃えに燃えている二つの炎の間で、瞬と星矢と紫龍はそれぞれに顔を見合わせ、それから三人同時に深く長い溜め息をつくことになったのだった。


いずれにしても。
この地上から戦いをなくすものが何なのか、人類はその答えを知っている。
その事実以上に大きな希望があるだろうか。






Fin.






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