「あああっ!」
自分の声で、瞬は悪夢から目覚めた。
「瞬?」
目覚め、見開いた瞬の瞳に金色の髪が映り、耳に氷河の声が届けられる。
瞬にとって、それらのものほど自分の生を確信させてくれるものはなかった。

(生きてる……!)
そのことに、瞬はまず安堵した。
そして、安堵した自分に気付き、やはり自分は本当は生きることを望んでいるのだと自覚する。

「どうしたんだ」
「あ……」
「泣いてるぞ」
ベッドの上に半分だけ身を起こした氷河の右手の人差し指と中指が 瞬の頬にのばされ、触れた氷河の指先が濡れた感触で、瞬は自分の涙に初めて気付いた。

「氷河が……死んじゃう夢を見た……」
瞬の口から、咄嗟に嘘が出る。
自分が死のうとしていた――と本当のことを言ったら、夢の中とはいえ闘わなかったことを、氷河は怒るに違いない。
それがわかっていたから、瞬は氷河に嘘をつくしかなかったのである。

「俺が?」
氷河は僅かに眉をひそめて、瞬に問い返してきた。
頷くことはできないまま、瞬は偽りの言葉を重ねたのである。
「死なないで、逃げて――って言ったのに、氷河は敵の拳から逃げようとしないんだ」

「嘘をつけ」
氷河はあっさりと瞬の嘘を見破り――本当に見破られたのかどうか、それは瞬にもわからなかったが、ともかく氷河は瞬の言葉を言下に否定した。
「おまえに死ぬなと言われたら、今の・・俺は意地でも生きようとするはずだ」
「ゆ……夢だから……」
「夢の中でもだ」

氷河が再度、きっぱりと断言する。
そんな彼を、瞬は羨ましいと思わずにいられなかった。
そこまで迷いなく、自分が生を志向していることを確信できている氷河が、瞬は羨ましくてならなかったのである。
その羨望と憧憬の気持ちは、視線を我が身に向けると同時に悲しみの感情に変わった。

「じゃあ、あれはやっぱり……」
「やっぱり?」
「どうしたって僕だよね……」
氷河の腕に両手でしがみつき、瞬は苦い気持ちで呟いた。






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