瞬の許諾の返事を得ると、氷河はそれ以上は何も言わず、自分に向けられている瞬以外の仲間たちの視線に気付いた様子もなく、ラウンジを出ていった。
それまで固唾を呑んで、瞬が氷河にどう答えるのかを見守っていた星矢が、氷河の退室を認めるなり大きな声をあげる。

「『僕は構わない』のかよ!」
「少しは焦らしてみせたらどうだ。自分をあまり安売りするのはよろしくないぞ」
紫龍までが、決して瞬を責めるふうにではなかったが、瞬の出した答えに忠告を垂れてくる。
勝手なことを言う仲間たちに、瞬はやっと顔をあげて反駁したのである。
「だ……だって、あんなふうに正面から来られるなんて思ってなかったんだよ……!」

好きだと言われ、キスは何度かした。
『いつかはそれ・・をしなきゃならないぞ』と星矢にからかわれるたび、その時の到来が恐いような、それでいて胸のどこかがときめくような、不思議な困惑に襲われることを繰り返してきた。

それでも、それを避けることはできないのだという覚悟のようなものを自分の内に養いつつ、ついに迎えたこの日この夜。
氷河が事前に相手の意思を確認してくるというのは想定外だったが――その時には氷河の強引さに負けてそうなるものと思っていたので――瞬にとってこの夜の訪れは青天の霹靂というほど唐突なものではなかった。
覚悟は――していたのだ。

「明日、感想聞かせろよな!」
「そっ……そんなこと、できるわけないでしょ!」
星矢にからかわれて頬を真っ赤に染めながら、この事態を完全に喜んでもいない自分自身に、瞬は気付いていた。






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