「出番がこない」
第一プリズンと第二プリズンを繋ぐ岩の橋のたもとに、ジェミニのカノンが手持ち無沙汰に佇む姿があった。
彼は青銅聖闘士たちが危機に陥ったら即座に救いに行くべく その場に待機していたのだが、その時がなかなか訪れないことに、さきほどからずっと じりじりしていたのだ。


実はその頃、青銅聖闘士たちはとっくに第一プリズンを抜け、第二プリズンに向かう道を急いでいたのである。
「ルネさん、早くいい人が見付かって、ヒステリーが治るといいね!」
ひっそりと静寂の法廷を去っていったルネの後ろ姿を思い出しつつ、瞬が隣りを走る氷河に言う。
「俺たちの麗しい愛の姿が相当刺激になったようだったし、大丈夫だろう」
自信満々で言う氷河も氷河なら、彼の言葉に素直に頷く瞬も瞬である。
星矢と紫龍は、元気一杯に前を走る二人の楽しそうな背中を呆れ顔で見やり、それから溜め息と共に疲れた視線を交し合ったのだった。


己れの心を縛りつけているものを振りほどき、自由な心で虚心に世界を見詰めれば、世界には幸福になるための出会いと希望がいくらでも用意されているはずである。
神は――真の神は――すべての人が幸福になることを願って、人間を作ったのだから。






Fin.






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