明けて翌日 25日、クリスマスの朝。
日本人はイブが終わるとクリスマスは終わったものと認識し、そそくさと正月の準備にかかる。
不信心者ばかりが集まる城戸邸でも、それはご多分に漏れなかった。

「氷河と瞬はどうした。夕べ仲直りして、一緒にどこぞの教会に行くとか言っていたようだが」
いつもと同じ時刻にダイニングルームにやってきた紫龍は、瞬のために残しておいた分のケーキを星矢が食べている様を見て、『おはよう』を告げる代わりに星矢に尋ねた。

「野暮 野暮。夕べ夜中に帰ってきたと思ったら、ケーキも食わずに氷河の部屋に直行したよ。今頃、ようやく いい気持ちで寝ついたとこなんじゃねーの」
手にしていたフォークを左右に振りながら、星矢が紫龍の不粋を指摘する。
「全く、信仰心のない奴等だ」
両の肩をすくめ、呆れたようにそう言う紫龍が手にしているのは、早くも玄関のドアから取り外してきたらしいクリスマスリース。
彼は、もう一方の手に、なぜかヒイラギの赤い実や葉ではなく、南天の実と松の葉を持っていた。

「それ、どーすんだ?」
「ああ、このリースを正月用の注連しめ飾りとして再利用できないかと思ってな」
どう見てもパソコンのプリンタ用紙で作ったとしか思えない御幣ごへいをひらひらさせながら、紫龍が答える。
義と友情に篤い龍星座の聖闘士の倹約精神に、星矢は思い切り――だが、一瞬間だけ――呆けてしまったのである。

「信仰心がないって、どっちがだよ」
「人間、しっかりと現在に足を踏みしめ、その上で怠りなく未来を見据えて生きていかないとな。正月をゆっくり過ごすためには、今から準備を怠らずにいなければなるまい」
紫龍の所業の是非は そういう次元の問題ではないような気がしたが、星矢はその件に関して それ以上の突っ込みを控えることにした。
無宗教多宗教の日本人にとって、それは大した問題ではなかった。
ケーキの最後のひとかけらを口中に放り込み、飲みくだし、しみじみと味わうように仲間に告げる。

「日本ってしょーもない国だけど、いい国だよなー。クリスマスにはケーキが食えるし、正月には餅が食える」
「日本に限らず、神の創った世界では、意図的に目をそむけない限り、希望はどこにでもあるものだろう」
「俺たち、希望の闘士だしな」

終わらない闘い、なくならない争い。
今彼等が生きている世界は、必ずしも神が望んだ通りの世界ではないだろう。
だが、そんな世界のただなかにいても、アテナの聖闘士たちが希望の姿を見失うことだけは決してないのだ。

21世紀に入って何度目かのクリスマスの朝。
外では純白の雪がちらついているというのに、空は明るく晴れている。
2000年の昔、救世主がこの世界に現れたこの日、窓からは希望の光が射し込んでいた。






Merry Christmas






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