『確かに僕たちは今まで多くの人たちを傷付けてきた。その罪と罰は、いつか この身が滅んだ時に甘んじて受けるつもりです』 冥界の裁きの館の裁判官に向かって 瞬が澱みなく告げる言葉を、ハーデスは快い楽の音に身を浸すように楽しく聞いていた。 冥界の王が影のような笑みを浮かべる――というより、今 彼は影そのものだった。 その影の姿にも あの人間を選ぶほどに、冥界の王はアンドロメダ座の聖闘士を気に入っているのだと、パンドラは理解した。 パンドラは、そして、今更ながら申し訳なさを覚えたのである。 幼かった自分にもっと力があれば、あの者――瞬――は、もっと早くに ここに在るはずだったのだ。 「ハーデス様、どうかなさいましたか」 ここにいるのは実体ではなく影にすぎないことを知りつつ、パンドラはその名を呼んだ。 ここに在るのは影にすぎないが、冥界の王の意思は いついかなる時もこの冥界に満ちている。 影の中に己れの意思を宿らせ、これまで冥王は幾人かの冥闘士と対面することもしていた。 「あれは本当に良い」 「あれ……とは?」 「アンドロメダ――いや、瞬。あれは本当に良い器だ」 ハーデスの影は、彼の側に控える黒衣の女に そう言った――至極 満足そうに。 「冥界の法廷の裁判官に対して、あそこまできっぱりと自らの罪を裁かれる時に言及してのける。ああまで素直に自分の罪を認められる人間が、人間界にどれほどいることか……。自らの罪を、俯かずに言葉にできる人間が」 「は?」 「あの者が、自らの罪を 開き直らずに認められるのはなぜだろうな。あれは、どこで その素直さを手に入れたのか――」 冥界の王が口にする言葉の意味を、パンドラは咄嗟に理解することができなかった。 が、ハーデスは、いちいち彼女に説明するようなことはせず――彼女をその場に取り残したまま、一人だけで自らの疑念の答えを探すことを始めてしまった。 ハーデスの影から、彼の意思が離れる。 彼の眼は瞬の心の奥深くを覗き込み、蓄積された記憶の中に入り込み、求める答えを探し始め―― そして、彼は見付けた。 瞬を、そんなふうな人間にした瞬間を。 |