人間は、ティターン神族の一人であるプロメテウスによって作られた。 人間が種を蒔き耕すことをしなくても、大地は人間が命を保つために必要なものをすべて生み出し、また、人々は正義と真実を尊び、世界には罪悪というものが存在しなかった。 この時代を黄金の時代という。 黄金の時代の次に、銀の時代がやってきた。 大神ゼウスは1年を四季に分け、それによって人間は暑さや寒さを耐え忍ばなければならなくなった。 栽培しなければ農作物も実りを結ばなくなったのが、この時代である。 3番目にやってきたのは、青銅の時代。 人間は自分の利益のために争い戦うことを覚え、最後にやってきた鉄の時代には、地上は罪悪で満ちあふれた。 大神ゼウスは、人間界のそのありさまを見て激しく憤った。 そして、彼は、海神ポセイドンに命じて大洪水を起こさせ、パルナッソス山に住んでいたデュカリオンとその妻ピュラー以外の人間をことごとく滅ぼし去ってしまったのである。 ただ二人だけ生き残った夫婦は、自分たち以外のすべての命が消えた地上で、再び人の世を作り始めた。 世界をも容易に滅ぼしてしまう神の力に怖れおののきながら。 人間は、だが、たくましい生き物である。 彼等は神々と違って永遠の命を持たない分、生命力にあふれてもいた。 長い時間は要したが、やがて地上には以前のように生命が満ちあふれ、多くの国が形成されることになったのである。 一度は神によって滅びを経験した後の時代、人間にとって神は畏敬の対象だった。 ただし、神は、神に対して従順な者・敬虔な者たちには多大な恩寵を与えてくれるものでもあった。 多分に気まぐれではあったが、神を祭る神殿を建て、祈りと生け贄を欠かさずにいれば、神々は気前よく人間たちに幸運を授けてくれたのである。 そんな神の恩寵を、特に享受している国が一つあった。 それは、神々の館のあるオリュンポス山の北方にある ごく小さな国だったが、国の民は争いを好まず勤勉、その上、神と運命に対して極めて従順。 そういう性質が神に愛されたのか、その国を守護する神は、民の願い――それを代弁して神殿に願い出るのはその国の王だったが――を必ず聞き届けてくれたのである。 他国からの侵略、自然の脅威――国難と言えるほどの重大な事態が起こるたび、その国の王は、難の回避を神に祈り、神は必ず王の願いを聞き届けてくれたのである。 |