そもそも、氷河のような手合いと常識的な会話が成り立つはずがない。 遅ればせながら その事実に気付いた星矢は、自らの会話の相手を、氷河から氷河よりは常識の持ち合わせが多いであろう瞬に変更した。 すっかり呆れ果てて――というより、すっかり氷河を見限った態度で、星矢が瞬に向き直る。 そして星矢は、彼の要求を瞬に突きつけた。 「瞬、この馬鹿をどうにかしろよ」 瞬が、星矢の言葉に困ったように肩をすくめる。 即座に瞬が自分の要望に沿ってくれない現実を見て、星矢の胸中には嫌な予感と嫌な考えが生まれてきた。 瞬は本来 恥というものを知っている人間である。 それが こうして氷河のじゃれつきを許しているのは、やはり瞬にも氷河を邪険にして彼に嫌われたくないという、恋する者の計算があるからなのではないかと、星矢は考えた――感じたのである。 瞬は、ノンキでズボラで無神経で非常識な氷河に、既に心身を毒されてしまったあとなのではないか――と。 果たして瞬は、星矢の推察を裏付けるようなことを、彼の戦友に言ってきたのである。 氷河のように断定的ではなかったが、現象でなく自らの考え方について語る時に、断定的でないことが断言でないわけがない。 「僕は、氷河の言うことは あながち間違いじゃないと思うよ。自分を他人にさらけだすのって、死ぬ気で傷付くことを覚悟でないとできないことだもの。すごく恐くて、勇気が要って、氷河の言うように、命を賭けるつもりでないと そうそう挑めないことだと思う」 「……」 それを、瞬はしたのだ。 よりにもよって、氷河のような男のために。 「その いちゃいちゃがイノチガケ?」 この二人は恋にうつつを抜かして、アテナの聖闘士であることの義務と責任を忘れかけている。 ほとんどそう確信して、星矢は瞬を面詰した。 瞬が、星矢の言葉にしみじみと頷く。 「イノチガケ……うん、そうなのかもしれないね……」 「瞬、おまえまで……!」 瞬までがそんな非常識なことを――断定的にではないにしても――言うことがあろうとは。 瞬は氷河に悪い病気でも伝染されて おかしくなってしまったに違いないと、星矢は思わざるを得なかった。 星矢には、氷河の主張も、それに同意する瞬の言葉も、アテナの聖闘士にあるまじき だらけきった生活の言い訳としか思えなかったのである。 |