自分はシュンに帰らぬ兄の身代わりをさせられているのかもしれない――と思わないでもなかったのである。
十中八九そうなのだろうと、ヒョウガは思った。
だが、ヒョウガは、それでもシュンを求めずにはいられなかった。
シュンの細い身体は、海のように尽きぬ快楽と温かさを その内に秘めていた。
肉親に、人の温もりに、愛に 飢えているはずの人間が、なぜこれほどのものを他人に与えることができるのかと合点がいかぬまま、ヒョウガは、何もないあの部屋で、誰も来ない砂浜で、シュンを抱き続けた。

二人のそれは、いわゆる自然な交合ではない。
シュンは二人の交接に相当の痛みを感じているはずなのだが、彼はむしろ それを歓んでいるようだった。
シュンは自らもヒョウガを求め、また、ヒョウガに求められればすぐに応じた。
「おまえは、そんなにこれが好きなのか」
シュンの中にそれを突き立てて、一度 皮肉混じりに尋ねてみたことがあったのである。
シュンは、身体をのけぞらせながら両腕でヒョウガにしがみつくという矛盾したことをしながら、掠れた声で、
「僕はヒョウガになりたいの……っ!」
と、ヒョウガには理解できない答えを返してきた。

それはどういうことなのかと反問する余裕は、ヒョウガには与えられない。
一度シュンの中に入ってしまったら、それこそ腹を据えてかからないと、あっという間にシュンに翻弄され、男としてひどく決まりの悪い思いをさせられることになるのだ。
あんな情けない思いをさせられるのは、一度だけで十分である。
ヒョウガは、シュンに問い質したいことを頭の外に追いやって、シュンを組み敷く腕に力を込めた。






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