泣ける映画を泣くために観にいって、その希望が叶ったのだから上機嫌でいていいはずの瞬は、その日、城戸邸帰宅後もずっと機嫌が悪かった。
泣きはらした目で帰ってきた瞬の姿を見た氷河も、もちろん不機嫌。
それだけならまだしも、彼は、どう考えても“不審の目”としか言いようのない視線を紫龍に投げてくる。
実際に糾弾されることもなく、また具体的な皮肉や嫌味を言われない分、氷河の不審と憤りの強さと深さが感じ取れて、紫龍ははなはだ居心地が悪かった。

彼としては、
(俺が泣かせたんじゃないーっ !! )
と、大声で叫びたいところだったのだが、たとえその望みを実行に移したとしても、肝心の氷河は仲間の弁明を聞く耳を持ちあわせてはいないだろう。
氷河は、彼にとっての不都合をすべて、彼の長髪の仲間の上に帰したいのだ。
瞬が泣いていることも、瞬が彼以外の男を映画鑑賞の同伴者に選んだことも、すべては龍座の聖闘士のせいだということにして、瞬と自分以外の何者かを憎んでいたいのである。
自分は瞬に好かれているという確信を抱いていた金髪男は、おそらく、自分以外の男が瞬に求められているという現実が受け入れ難く、その理由も知りたくないと思っているのだ。

弁解が許されないとなれば、時間が 瞬と氷河の不機嫌をやわらげてくれるのを待つしかない。
そうなることを期待して、どうにも納得しきれない理不尽さをその胸中に抱きつつ、その夜紫龍は眠りの床に就いたのだった。






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