「瞬ー。今日は、H比谷公園の方に車上荒らし退治に出掛けるぞー」 「はーい」 氷河と瞬は、今日も揃って仲良くデートに出掛けるつもりらしい。 城戸邸内には、朝から爽やかな二人の声が響いていた。 「氷河と瞬は またデートかよ」 二人のしていることは決して悪事ではないので、星矢や紫龍には彼等を非難することもできない。 彼等は、二人の正義感にひたすら溜め息をつくばかりだった。 氷河と瞬は、あれからすっかり青少年たちによる犯罪撲滅の使命に目覚めてしまったのである。 氷河は、正直な青少年たちの目の前で瞬といちゃつき、彼等に羨望の目で見られるのが快感でならないらしい。 その上、我慢するということを知らない彼等は、しばしばその羨望を憎しみに換え、氷河につっかかってきてくれたりするのだ。 無論、強者である氷河は彼等に対して、マハトマ・ガンジーも真っ青の無抵抗主義を貫く。 瞬は瞬で、そんな氷河を庇い、不埒な青少年たちに立ち向かっていく 雄々しい自分のイメージに浸ることが、これまた快感の極みであるらしかった。 自分の妬心に正直な青少年たちは、次から次へと氷河と瞬の罠にはまり、警察のお世話になる羽目に陥っている。 そういう二人連れが都内のあちこちに出没しているということは、彼等の情報網にしっかりと乗っているようなのだが、知っていても、いざ目の前で氷河と瞬にいちゃつかれると、彼等は抑えがきかなくなってしまうらしかった。 「犯罪者って、みんな馬鹿正直な奴ばっかなんだな」 もう少し我慢するということを覚えないと、彼等は、善良な一市民を装った人間たちの人生の楽しみのダシとして利用されるばかりである。 だというのに、彼等は一向に自分たちの間抜け振りに気付かない。 彼等がその事実に気付かないことが、星矢は不思議でならなかった。 人として、これほど割の合わない生き方もないというのに。 ともあれ、氷河と瞬のデートの範囲が拡大するにつれ、数百人規模のメンバーを有していた車上荒らしの組織は、今ではほぼ壊滅状態だった。 氷河は最近、二人のデートを全国ツアーにする計画を練っているらしい。 愛と正義の名のもとに、二人はこれからも己れの欲望に導かれるまま、元気一杯 闘い続けていくに違いなかった。 Fin.
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