旧暦の七夕が近付いていた。 天の川を挟んで、ヴェガとアルタイルは夜ごとにその距離を縮めている。 あの二つの星のように、兄と氷河が互いに歩み寄ってくれたならどんなにいいだろう――と、瞬は思った。 しかし、二つの星の間には巨大な星々の河が横たわっていて、二つの星は決して出会うことがない。 自室のベランダの手擦りに手を置いて、切ない思いを断ち切れずに、瞬は満天の星を見上げたのである。 「氷河と兄さんが仲良くなりますように」 その星たちに向かって、瞬は小さく呟いた。 幼い頃から、幾度こうして星に願いをかけることをしてきただろう。 そのたびに、願い事は自分の力で叶えるしかないのだという事実を思い知らされてきたというのに、それでも瞬は願わずにはいられなかった。 「何かほしいものでもあるのか?」 願い事を言い終わった瞬の耳に、ふいに氷河の声が飛び込んでくる。 瞬の部屋から続くベランダに、いつのまにか氷河の姿があった。 どうやら彼は、部屋のドアからではなくベランダを伝ってここまでやってきたらしい。 一輝が城戸邸に来ている時の氷河の登場の仕方は、いつもこんなふうだった。 瞬の部屋に入るところを、瞬の兄に見付からないようにするために。 昨日までの瞬は、氷河がそんな真似をするのは、兄に対する氷河の照れの一種なのだと思っていたのだが、もしかしたらそれは本当は、瞬の部屋に入るところを瞬の兄に見咎められることで起こる面倒を避けるための行為だったのかもしれない。 だとしても――だとしたら、氷河は、決して自ら争い事を欲しているわけではないのだ。 無論、好んで騒乱を引き起こすような人間でもない。 「氷河……」 「俺が欲しいのなら、星に願い事なんかしなくても、おまえが望むだけくれてやるぞ」 瞬の呟きを勝手に自分に都合の良いように解釈して、氷河が機嫌よさそうに笑う。 兄といる時とは打って変わって――つまりはいつも通りに――優しい氷河の眼差しの中で、瞬は彼に何も言うことができなかった。 (お星様、お願い……) 氷河に肩を抱かれ、促されるまま室内に戻る時、瞬はもう一度 心の中で呟いたのである。 おそらく、その夜、“お星様”は退屈していた。 |