自力で、誰にも頼らず独力で、その知識と技を身につけなければならない――。
それが瞬に突きつけられた最終結論だった。
最低でも、自分が未経験で無知で、これまでただの一度も誰かに もてたことがなかった事実が氷河にばれない程度の技と知識を、瞬は短時間で習得しなければならなかった。

幸い、現代社会には、経験者に教えを乞わなくても その手の情報を入手できる便利なものが普及している。
城戸邸の図書室には、その手の書籍は一冊たりともなかったが、インターネットに接続できるパソコンが数台設置されていた。
そのパソコンに向かって、瞬は、かつて一度も入力したことのない検索ワードを、『はじめて』という単語と共に打ち込んでみたのである。
エンターキーを押し下げた後、画面に現われた『 検索結果 約1,500,000件中 1 - 10 件目 』の文字を見ただけで、瞬は頭がくらくらした。

『性にタブーはありません』
『優しく○○を△△してあげましょう。彼はきっと感激するはずです』
『◇◇を※※するのも有効です。男性の☆☆の部分は◎Южなため、一気に彼の気持ちを昂ぶらせることが可能です』
『とにかく大胆に』
『物怖じするのは感心しません』
『時には恥じらいを見せることも必要ですよ』
Etc. etc.

怒涛のように押し寄せてくる情報の渦。
サイトからサイトを渡り歩き、手当たり次第にリンク先をクリックし続け、モニターに現われるページの内容を読みあさった瞬は、パソコンの電源を入れてから1時間後には とてつもない混乱状態に陥っていた。
“常識”を知る人間たちは、これらのことをすべて頭に入れて、その行為に臨んでいるのだろうか。
だとしたら、世の中の大多数の人間はみな天才だと、瞬は思った。

無論、それらのサイトの中には、『余計なことは考えるな。自分が気持ちよければそれでいいのだ』だの、『世に反乱しているAV情報に惑わされるな。奇天烈な体位・テクは不要。正常位、正常位、ただ正常位あるのみ!』だのと、かなり偏った主張を主張するのみの乱暴なサイトも幾つかはあった。
だが、その大半は、茶道の作法やテーブルマナーの解説サイト並みに、事細かなテクニックと注意が微に入り細に入り記述されているサイトばかりで、瞬の感覚では、それらのマナーやテクニックをすべて完璧に身につけるにはどう考えても5年以上の時間を要するように思われたのである。

大量の有意義な記事を読んでまわったにも関わらず、パソコンの電源を落とした時、瞬の脳内に残っていたのは、ただただ『この道は奥が深すぎる』という感懐のみだったのである。






【next】