「あれ、氷河、どこに消えたのかと思ってたら」 瞬たちが城戸邸に着くと、ちょうど星の子学園の子供たちをプールに突っ込み終えたところらしい星矢が、両手にスイカをぶら下げた金髪男を認めて、声を掛けてきた。 「氷河が来てくれて助かっちゃった。僕、力持ちに見えないのかな」 それだけで事情がわかったらしく、星矢が肩をすくめる。 「見えないな」 そこにやってきた紫龍が、星矢も明言を避けた言葉をあっさりと口にして、華麗に瞬の面目を潰してくれた。 瞬はもちろん彼に一言物申してやろうとしたのだが、彼が手にしているものに目を奪われてしまったせいで、瞬はそうすることができなかったのである。 紫龍は、その手に一辺が1メートルはあろうかという巨大なステンレス製の調理用バットを抱えていた。 中には、なにやら白いゼリー状のものが入っていて、ぷよぷよとスライムのような蠢きを呈している。 「氷河、ちょうどいいところに帰ってきてくれた。巨大杏仁豆腐を作ったまではよかったんだが、ものが大きすぎて冷蔵庫に入らないんだ。スイカと一緒に冷やしてくれないか。凍らない程度に優しくな」 「紫龍ってば、そんな……」 氷河は決してこんなことをするために 苦労して冷却技を身につけたのではないはずである。 自分以上に面目を潰されて立腹していいはずの氷河が、文句も言わずに頼まれた作業に勤しみ始めるのを見せられて、瞬はますます紫龍にクレームをつけにくくなってしまったのだった。 ゾル状だった杏仁豆腐が あれよあれよという間にゲル状に変わっていく様を眺めていた星矢が、感心したような吐息を洩らし、大きく深く頷く。 「氷河って、ほんと、夏場だけは重宝するよな」 「夏場だけって……」 いくら仲間同士でも氷河が気を悪くしないかと、瞬は気を揉んだのだが、氷河は無言で もくもくと人間冷蔵庫の仕事を続けている。 瞬は、氷河の反応の薄さに、安堵を覚えると同時に、ある種の違和感のようなものを感じることになったのである。 「氷河って、前からあんなだったっけ?」 「んー、前はもうちょっと喋ってたような気もするけど……。暑いから口きくのが面倒なんだろ」 星矢はのほほんとした声でそう答えを返してきたが、瞬は、空調完備の城戸邸内でそれはないような気がしたのである。 |