瞬が本当に肖像権侵害で双子座の黄金聖闘士を訴えたのかどうか、あるいは、そんなまどろっこしいことをする前に力にものを言わせたのかどうかを、星矢たちはあえて知ろうとは思わなかった。
人を傷付けることが嫌いだと公言している瞬の立場を考え、サガの黄金聖闘士としての体面を考えれば、彼等は事の顛末を知ってしまうわけにはいかなかったのである。

ともあれ、瞬がサガのブログの存在を知った日の1週間後、世界中の助平男たちに絶大な支持を受けていたサガのブログは、ネット上から跡形もなく消滅した。
氷河の顔も元に戻り、瞬は相変わらず虫も殺せぬような顔をして、氷河といちゃついている。
氷河によってWWWシステムが消滅することも、瞬によって双子座の黄金聖闘士がこの世から抹殺されることもなかった。
地上の平和と安寧を守ることを生業なりわいとしている星矢と紫龍は、その事実だけを受け入れ、ほっと安堵の胸を撫でおろしたのである。

それから1ヶ月後のある日、星矢はネットの海の片隅で、ある一つの小さなサイトを見付けた。
ふと思い立って『バスタブ』で検索をかけた星矢が、本当に偶然見付けたそのサイト。
『我が人生 最高の伴侶』というタイトルのそのサイトでは、『サガちょん』なる人物が、彼の愛用のバスタブへのあふれるような思いを連綿と語り続けていた。
好きなものはいくら語っても言葉が尽きることはないらしく、その語りには際限というものがない。

広い世の中には、同じ趣味を持つ人間もいるらしい。
そのサイトには熱心な常連が一人ついていて、2人はサイト内に設置された掲示板で互いのバスタブの素晴らしさを、実に楽しそうに自慢し合っていた。

『サガちょん』と名乗る人物が誰なのか、星矢は突きとめようとは思わなかった。
そのサイト内で彼が綴る文面からは、今 彼がひどく幸せなサイト運営をしている様子が窺い知れる。
星矢は、それがわかれば、それ以上の情報は知る必要がなかった。
だから、星矢は何も言わずに微笑んで、そっとブラウザを閉じたのである。






Fin.






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