口では直接言いにくいので、俺も手紙を書く。 星矢、おまえはどうしてあの手紙をそのまま瞬の部屋のドアの下に置いておかなかったんだ。 せめて封を切らずにおくことを、なぜ思いつかなかったんだ。 おまえがもう少し賢明であってくれさえすれば、俺はあんな破廉恥な手紙を読まずに済んだのに。 主に水芸の聖闘士であるはずの俺が、顔から火を吹きそうになったぞ。 今更、瞬に、あの封を切った手紙を手渡すわけにもいかないし、かといって氷河に差し戻したら、奴も立場がなくなるだろう。 未遂とはいえ犯罪者である氷河の立場を考慮してやる義務は俺にはないが、加害者にも人権というものはあるわけだしな。 こういう問題では、加害者の人権を無視することは、被害者の人権を踏みにじることにもなりかねないから厄介だ。 自分が男に乱暴されかけたなんてことは、瞬も誰にも知られたくないだろう。 俺たちは、氷河はともかく、瞬の名誉は守ってやらなければならない。 いちばんいい解決方法は、氷河にほだされた瞬が 自発的にさっさと奴のものになってくれることだが(そうすれば、あの手紙がどこかに行方不明になっても誰も困らないし、氷河も手紙のことなど忘れるだろう)、果たして あの潔癖症の瞬が男と寝る気になってくれるかどうか。 女と寝ることだって嫌がりそうな奴なのに。 氷河は、一度コトに至ってしまってからの瞬の潔癖症の効用しか考えていないようだが、どうして恋に狂っている男というのは、考え方がああも片手落ちで一方的なんだろうな。 考えるべきは、それ以前のことだろうに。 汚らわしい欲望に目を爛々とさせて のしかかってくる男を、瞬が喜んで受け入れると思い込んでいる氷河が信じられん。 あの手紙はつまり、『やらせてくれ、やらせてくれ』と瞬に迫っている手紙だろう。 ……と考えると、瞬のためにも氷河のためにも、あの手紙がおまえに拾われたことはいいことだったのかもしれないな。 とはいえ、おまえが拾ってはならない落し物を拾ってしまったのは事実だ。 氷河の暴走を食い止めるには、一輝か沙織さんにあの手紙の処置を任せてしまうのがいちばんだろうが、そんなことをしたら一悶着起こるのは確実だし。 一応、あれはしばらく俺が預かっておく。 今度から、落し物は俺ではなく交番に届けるようにしてくれることを願う。 では。 紫龍
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