前略

手紙をありがとう。ギリシャ語で失礼させていただく。

なにやら氷河が騒ぎを起こしているようで、本当にすまない。
あれは昔から、何事かを思い詰めたら それしか見えなくなる、仕様のない子供だったのだ。

ところで、実は、私は日本語があまり堪能ではない。
君からの手紙も氷河が書いたとおぼしき手紙も 日本語で書かれていたので、解読のためにあの二通の手紙を余人の目に触れさせることになった事実を最初に断っておく。
つまり、聖域にいる黄金聖闘士全員に。

とはいえ、我々黄金聖闘士たちも、日本語の読み書きに関しては全員が似たり寄ったりのレベルなのだ。
そこで、日本出身の鷲座イーグルの魔鈴に翻訳を依頼したところ、彼女は氷河の書いた手紙を読み終えるなり激しいヒステリーの発作を起こし、かのスターヒルを一撃のもとに打ち砕いてしまったのだ。
我々は、おかげで、何やら見てはならぬものを見ることになってしまったのだが、あの不可解な棺のことは、黄金聖闘士全員の合議の結果、初めから無かったことにした。

次に我々は、来日経験のある獅子座のアリオリアの意見を聞いてみたのだが、彼も実は日本語は――特に 読む方は得意ではなかったのだな。
日常会話も、魔鈴に教えてもらった『これいくら?』『高すぎるよ』『10円にまけてくれ』くらいしか知らないのだそうだ。
我々が大いに落胆したことは言うまでもない。

だが、安心したまえ。
君が送ってくれたあの手紙は、乙女座バルゴのシャカが、その心眼でもって解読してくれたのだ。
彼は、面倒な経緯の部分は省いて、結論だけを我々に示してくれた。

氷河と瞬くんの結婚式の友人代表スピーチは、君等に代わって彼が行なってくれるそうだ。
瞬くんとは命のやりとりをし合うほど深い友情に結ばれた自分こそが、その役目を担うにふさわしいと言って、彼は大変張り切っている。
スピーチ時間は30分、スピーチ終盤には天井から沙羅双樹の花びらを散らす演出を求めているので、一応伝えておく。
が、無理なら無理と言ってくれて構わない。
舞い散るのがサクラの花びらでも、彼は気にすまい。

我々が心配しているのは、むしろ宗教問題なのだ。
氷河は、名目上とはいえロシア正教徒ということになっている。
瞬くんは、当然シントーの宗徒だと思う。
ちなみにシャカは仏教徒、私はカソリックだ。
だが、我々聖闘士は、同時にギリシャの神であるアテナに仕える者でもある。
式は当然アテナ神殿で執り行なうことになると思うのだが、このあたり、問題はないのだろうか。
シントーはイスラムなどとは違い、信仰の異なる者同士の婚姻には寛容と聞いているが、宗教の面では、アテナの聖闘士は皆 大いなる矛盾をはらんだ者たちなので、私はその点を心配しているのだ。

ああ、しかし、本当にめでたいことだ。
我が弟子の伴侶は我が弟子も当然。私はやっとマトモな弟子を持つことができるのだな。
私がそのことを大いに喜び、感動の涙を流していたら、アフロディーテがやっかんだのか、
「アンドロメダは冥王ハーデスの依り代として選ばれたこともある人間。どこぞの水瓶座の聖闘士よりはるかに強いぞ」
などと憎まれ口を叩いてきた。

最初は、アンドロメダとの闘いに敗れた経験が、彼をそんな言動に走らせているのかと思っていたのだが、どうやらそうではなかったらしい。
他の黄金聖闘士たちが口を揃えてアンドロメダを可愛い可愛いと褒めちぎったのが、彼の気に入らなかったらしい。
実に大人気ないことだ。
まあ、そんなへそ曲がりもいることはいるが、しかし、私は心からこの結びつきを喜んでいる。

互いに12人では済まない数の小姑がいるような2人が結ばれるのだ。
2人は今後様々な試練に直面することになると思うが、私はいつも2人の味方だ。
式の日取りが決まったら、こちらの準備の都合もあるので、なるべく早く教えてほしい。
なに、敵の襲撃があったとて、そんな無粋な輩には紅白饅頭でも配って お引き取り願うつもりだが、万一のこともある。
厳重な警備体制を布いておくことにしよう。

その時が本当に本当に楽しみだ。
ふつつかな弟子だが、彼が立派に独り立ちできるようになるまで、君にも友人の一人として、親身になった指導鞭撻をお願いしたい。
なお、式のクライマックス時に瞬くんが私に渡す感謝の花束は、蘭かカトレアを希望する。
よろしく手配しておいてくれたまえ。


ドラゴン紫龍殿

水瓶座アクエリアスのカミュ
 






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