気付くと瞬は、裸の氷河の胸の中にいた
彼の唇が瞬の唇に直接熱を伝えてくる。
鼓動の音が聞こえそうなほどに速く大きく、瞬の心臓は波打ち始めていた。
瞬は、絡んでくる氷河の腕を振りほどこうとはしなかったし、その胸を押しやろうともしなかった。
だが、だからといって、瞬は、この事態を歓迎していたわけではなかったし、ましてや期待していたわけでもない。

出会って半日、知っているのは名前だけ。
聞いた限りでは、家も所持金も家族もなく、まさしくどこの誰とも知れぬ馬の骨。
そんな男が、眠る場所を厚意で提供してやった相手に、図々しくそれ以上のものを求めてくるのである。
その無礼な男の腕を振り払えない。
それはありえないことだった。
確かな社会的地位を持つ、もっとずっとマトモな男女からの誘惑を、瞬はこれまですべてきっぱりと拒絶してきたのだ。

だというのに、まるで彼の青い瞳に逆らうことのできない魔法をかけられてしまったかのように、瞬の心と身体は彼の言いなりになりたがっている。
彼の愛撫を快く感じることも、重なってくる身体の重みに心が震えることも、絶対に ありえないことのはずだった。
瞬はこれまで一度も誰とも肌を合わせたことはない――そんな記憶はなかったから。

にも関わらず、瞬の身体は氷河の愛撫に 奇異に思えるほど自然な反応を示した。
彼の指先に力が込められるたびに 艶を帯びた声が洩れ、あまつさえ、瞬の手足は彼の指や唇の命令に従って動き、また力を抜いていくのだ。
瞬は最後には、彼を迎え入れるために、自分から腰を浮かせ身体を開くことまでした。
彼が中に入ってきた時にも、その衝撃に――まさしくそれは“衝撃”だった――、瞬の身体は、瞬の意思を無視して嬉しそうに反りかえってみせ、ひどく瞬を困惑させた。

彼はここからが長いのだということを知っているかのように、瞬の身体は勝手に力の配分を考慮して、ゆるやかに、だが しっかりと、彼に絡みついていく。
氷河の速さと強さが増すにつれて、徐々に意識を手放す方法さえ、瞬の身体は心得ていた。
喉の奥から間断なく、生まれたばかりの子猫の鳴き声のように小さな悲鳴が洩れ、それがやがて音のない深く荒い吐息の繰り返しになっていく。
そのたびに生まれる、『どうして?』という疑念と『嘘だ!』と叫びたい気持ちは、氷河に与えられる圧倒的な快感の前に、生まれる側から 儚いしゃぼん玉のように消えていった。

これ以上 彼の激しい律動に耐えていたら、自分の小さな心臓は張り裂けてしまうと思った瞬間に、それまでにない強さで氷河が瞬の身体の奥に押し入ってくる。
脳天まで響くような歓喜に襲われ、瞬は声にならない悲鳴をあげた。






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