一日一回

その夜、星矢は、今年の町内の書初め大会でもらった長さ135センチの半切りサイズの画仙紙を持ち出してきて、二人の仲間のためのスローガンポスターを作り、それを氷河と瞬の部屋の壁に貼りつけた。
小学生のそれのように大らかな星矢の文字は、それだけで十二分に 氷河たちの心中から妖しい気分を削ぐ効果があったのである。

その上で、星矢と紫龍は、毎朝7時に彼等の内のどちらかが氷河の部屋に二人を起こしに行くこと、彼等が城戸邸にいない時には二人の代わりに城戸邸のメイドがその役目を担うこと――を、城戸邸の邸内ルールとすることとし、その日の内に城戸邸の住人全員への周知徹底を図った。

当然、その時刻までにベッドを離れ身仕舞いを整えてないと、氷河と瞬は他人にあらぬ場面を見られてしまうことになる。
氷河はともかく、瞬はそんな事態をどうしても受け入れることができないらしく、今のところ二人は、なんとか『一日一回』のルールを守ることができているようだった。

「夕べは、氷河に30回くらいキスしてもらっちゃった。キスだけでも、ただ抱き合ってるだけでも、氷河に好きだって言えるだけでも、僕、すごくいい気持ちになって、どきどきして、幸せな気分になれるんだ。僕、どうして今まで あんな素敵なことに気付かずにいたんだろう……」
「俺も――今更な話だが、インサートするばかりが 二人で寝ることの重要事じゃないということがわかってきた」

それなりに試行錯誤を繰り返しながら、二人は二人の愛のために自分を律する術を覚えつつあり、二人の懸命な努力にいたく感じ入った星矢は、来年の書初め大会で書く文言を『為せば成る』にすることに決めたらしい。

人の心に恋の感情を生む第一の動機は、抑え難い情熱であるかもしれない。
しかし、その愛を長く保つ第一の力は、何よりも人の理性なのである。






Fin.






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