「私たちは、ま、なにしろ彼、綺麗なオトコだったし、暇つぶしも兼ねてタナカくんの召集に応じたの。でも、彼の方は私たちで暇つぶしができるとも期待していなかったらしくて、私たちの機嫌をとろうともしないのよね。ろくに口もきかずに無愛想にしてるだけで」 お茶と軽食類がテーブルに並べられると、彼女たちはすっかり砕けた態度になり、口の方も随分と滑らかになっていった。 「だから、人を呼び出しておいて その態度はないだろうって、私たち、彼を非難したわけ。せめて何か話せって。そしたら、彼、いかにも面倒臭そうに、好きな人に優しくするにはどうしたらいいんだろう? なんて阿呆なことを言い出したのよ」 「彼、見た目はクールで女の扱いにも慣れてそうじゃない? 私たち、すっかり面食らっちゃって、気が抜けて、最初のうちはかなりいい加減なアドバイスをしてたのよ。会話のための会話って感じで。彼の方も最初はそうだったんだけど、そのうちに私たちのいい加減なアドバイスに真剣に耳を傾けだして――」 「でかい図体で、あんな無愛想で目付きが悪いのに、それがやたらと可愛いの。あんなに無愛想なのに色気があるのは、彼が誰かを熱烈に恋しているからなんだって、嫌でもわかるくらい」 「その時点で、私たちは彼を私たちの玩具にするのを諦めたのよね。私たち、何度か彼を呼び出したけど、彼には指一本触れてないから安心して」 「面白そうなオトコだと思ったから、さりげなく誘いはかけてみたんだけど、彼には、その場にいないあなたの姿しか見えてなかったみたいで、私たちは3人とも空振り」 自分たちの魅力を華麗に無視してくれた無粋な男の話をするのが楽しくてならないらしく、彼女たちは瞬に口を挟む隙すら与えてくれなかった。 彼女たちが言いたいことをほぼ言い終えたらしい頃に初めて、やっとタナカクンが彼自身の意見を口にする。 「彼が可愛いって……。僕にはわからない感覚だなあ。彼は見るからに――可愛いっていうより怖いって印象の強い男だろう。僕は、彼の目には凄みどころか殺気すら感じる」 「僕は――わかるような気がする」 女性陣の迫力にひたすら 「そうでなくちゃ、彼が気の毒」 瞬のその呟きを聞いた3人の女性が、一様に楽しそうな笑みを作る。 「というより彼、いつも心ここにあらずみたいだったから、私たちも彼を怖いと感じずに済んだのだと思うわ。だから警戒せずに接していられた。でなかったら、あれは、余程の覚悟がないと近寄ろうとは思わないタイプの男よ。見るからに危険そうだもの。子供みたいに独占欲も強そうだし、好きになった相手には全身全霊で のめり込むタイプ。あなたも大変ね」 「いえ……。わざわざありがとうございました――氷河のために……」 彼女たちがこの席を設けたのは、どう考えてもタナカクンの尻拭いをするためではなく、氷河のためである。 そうとしか考えられなかった。 氷河が彼女たちに指一本触れなかったというのは事実かもしれないが、氷河がこの女性たちの辛辣と聡明と、そして優しさを“気に入った”のもまた事実なのだろう――と瞬は思ったのである。 そうでなかったら、あの氷河が、彼女たちの呼び出しに幾度も応じるはずがない。 瞬自身、この短い時間で、一見辛辣極まりない女性たちに好意を抱くようになっていた。 「彼、あなたの前では格好をつけていたいらしいから、察してあげてね。その割りに、あなたが自分だけのものだっていう自信を持てなくて、拗ねたり意地を張ったり、わざと他の女の子を見てる振りをして、あなたが焼きもちを焼いてくれないかなんてことを期待してたりするオコサマだし」 「ほーんと可愛いし面白くて いいオトコなんだけど、こんな清純派が好みなんじゃねー」 彼女たちもどうやら瞬の性別を誤解しているようだったが、瞬は彼女たちの誤認を訂正しようとは思わなかった。 そして、もちろん、氷河を自分たちと同年代か それより年上と思っているらしい彼女たちに、氷河の実年齢を知らせることもできなかったのである。 |