243年前に同じ神を敵とした聖戦があり、多くの聖闘士たちが闘い、傷付き、死んでいった。 その戦いを経て 今の世界があるのだと、瞬は聞いていた。 ただその戦いのためだけに、紫龍の師は長い時間 何も語らず、世の移り変わりを見守っていたのだと。 だから、瞬は信じていたのである。 これが最後の戦いだと。 この戦いが終われば世界は平和になり、アテナの聖闘士たちの闘いもまた終わりを告げるのだと。 ――大きな闘いだった。 瞬の身には思いがけないことも起こった。 失ったものは多く、アテナの聖闘士たちは疲れてもいた。 だが、これで、ついにアテナの聖闘士たちの闘いは終わる。 そう信じていただけに、新しい敵の出現によって瞬の受けた衝撃は大きかった。 冥界の王との戦いが終わっても、結局、世界は何ひとつ変わらなかったのだ。 そこに、瞬の夢見ていた平和な世界は実現しなかった。 新たに現われた敵は撃退したというのに、瞬は気落ちしていた。 「僕たちの戦いは終わらないのかな。僕たちはいつまで戦い続けなければならないんだろう……」 氷河が胸に負った傷に唇を寄せて、瞬は力ない声で呟いた。 常の人とは違う聖闘士の回復力で、その傷は既に消えかけていたが、その傷を愛しむように哀れむように、瞬はいつまでも愛撫をやめなかった。 「平和になったら、僕は、今度こそ本当に氷河を愛することができるのかもしれないと思っていたのに」 「今は本当に俺を好きなわけじゃないのか」 責めているわけではないことを示すために、氷河は瞬の唇に自らの唇を重ねてから、瞬に尋ねた。 「わからない……。氷河を好きなのは嘘じゃないけど、なんだか僕はいつも、戦いが終わらない不安を紛らすために、こうして氷河にすがってるような気がする……」 ただ漠然とそう感じるわけではない。 瞬がそう考えてしまうことには根拠があった。 大きな戦いのあとほど、際限なく氷河が欲しくなる自分自身――という根拠が。 そうして、これまで、幾度 癒えきっていない氷河の傷に口付けたことか。 これまでの瞬にとって、“闘い”は、氷河と強く求め合うための前戯のようなものだった。 そんな自分を、瞬はどこか病んでいるのではないかと不安に感じていたのである。 その不安も、戦いのない世界が実現すれば消えると信じていたのに、それは叶わぬ夢だった――のだ。 |