四万十川教授は、今は家人の姿のない客間で、瞳をきらきらさせながら吸血鬼と吸血鬼の犠牲者のお出ましを待っている。 良心的な医師が相手なら、黙って引き取ってもらう方策はいくらでもあるが、相手はマニアである。 ひらたく言えば、オタクである。 彼が、なまじなことで大人しく彼の目的を諦めてくれるとは思えなかった。 瞬を不安に落としいれた吸血鬼は無責任に にやにや笑っているばかりで事態の収拾にとりかかる意思はないらしく、彼の犠牲者は到底 利根川大学生理学部教授に顔を見せられる状態ではない。 そして、ゴシックホラー・マニアは床に根を張ったように客間のソファから動く気配もない。 黄金聖闘士たちによる千日戦争でさえ子供の喧嘩に思えるほど絶望的な膠着状態の横で、彼等に比べれば はるかに多い常識を持ち合わせた星矢と紫龍の二人は、ひたすら溜め息を洩らすばかりだった。 吸血鬼とは、生者でも死者でもなく、それゆえ神からも悪魔からも見放された異端の存在なのだそうである。 しかし、吸血鬼よりも恐ろしいものは人の業。恋する人間の非常識と無分別、そしてマニアの執念だと、常識人二人は しみじみ思ったのだった。 Fin.
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