世の恋人たちは、互いに互いの中に何を求めて恋に落ちるのでしょう。
自分たちが恋する相手に求めているものが、世の常の恋人たちのそれとは違っていることは、氷河と瞬も知っていました。
優しさや安らぎや生きる希望や情熱的なキスや愛撫――。
氷河と瞬は、もちろん、常の恋人たちと同じように、そういうものも求めていました。
けれど、氷河と瞬が互いに求めている最も大切なことは、二人がアテナの聖闘士として、同じ目的のために戦う同志であるということだったのです。
そういう恋も、一つくらいは世の中にあってもいいでしょう。
誰もが同じ理由で恋に落ちる必要は、どこにもないのですから。

ともあれ、そういうわけで、不和の女神エリスの卑劣な企ては、アテナの聖闘士たちの活躍によって(?)無事粉砕されることになったのでした。
彼女は確かに アテナの聖闘士たちの間に不和の種を投じることには成功しましたが、それは氷河と瞬の恋を更に深く強いものにする種でもあったのですから、不和の女神の存在も一概に意義のないものとは言えませんね。

もっとも、人間の姿に戻ったせいで空を飛ぶことができなくなり、自分たちが歩いて聖域に戻らなければならないことに気付いたアテナの聖闘士たちは、まもなく、
「リンゴを食うのは聖域に戻ってからにすればよかった!」
と、己れの軽率を悔やむことになってしまったのですが、それもまた貴重な経験と学習だったと言えるでしょう。
彼等は二度と同じ過ちを繰り返すことはしないでしょうから。

『急いては事を仕損じる』
貴重な教訓を手土産に、彼等は懐かしの聖域に向けて、再び長い旅路についたのでした。






Fin.






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