その日の午後のことだった。
「アテナの聖闘士の襲撃だーっ!」
という胴間声に、ヒョウガが午睡を中断させられたのは。
「なにっ !? 」
弾かれるように寝台から身を起こし、聖域内に与えられた彼の家を飛び出たヒョウガが目にしたもの。
それは、白羊宮から教皇の間に続く道沿いに宙に浮かんでいる無数の兵や聖闘士たちの姿だった。

おそらくアテナの聖闘士の襲撃を阻もうとした者たちに違いない。
先日の白銀聖闘士の場合とは異なり 呼吸はできているようだったが、彼等は完全に身体の自由を奪われていた。
これは尋常の小宇宙の力でできる技ではない。
襲撃してきたアテナの聖闘士たちの中にシュンがいることを、ヒョウガは確信した。

「アテナの聖闘士たちの襲撃だと !? アテナはいったいどれだけの兵を連れてきたんだ!」
最初から抵抗を諦めたために無事だったらしい雑兵の肩を掴み、ヒョウガは彼を怒鳴りつけた。
「しゅ……襲撃というか、たった一人乗り込んできただけなんです。ただの細っこい子供にしか見えないのに、とんでもない力で……あれがアンドロメダの聖闘士――」
「一人だとっ !? 」
宙に浮かんでいる者たちも、地に足を着けている者たちも、その驚きは相当のもののようだったが、彼の言葉を聞いたヒョウガの驚愕は彼等の比ではなかった。
兵の言葉が事実なら、人と争うことを嫌っているシュンが、たった一人で聖域に乗り込んできた――ということになるのである。
こんな無謀があるだろうか。

「その聖闘士はどこへ行った!」
「教皇の間の方へ」
(シュン……!)
ヒョウガは、教皇の間に続く長い石の階段を、脱兎のごとく駆けあがった。






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