かくして、記念すべき『第一回 アテナの聖闘士による 大にらめっこ大会』の決勝は、氷河と瞬の青銅聖闘士対決ということになったのである。
が、ここで、出場選手・観客から この大会運営に対してのクレームがつき、決勝はしばらくの休憩時間をおいてから再開の運びとなった。

クレームの内容は実にシンプル。
試合内容自体は、なにしろ“負けた者が笑う”戦いであったため、敗者も遺恨を残すようなことはなかったのだが、問題はトトカルチョの方だった。
選手・観客共、氷河と瞬の優勝に賭けている者がほとんどいなかったため、彼等は、これではトトカルチョの面白みに欠け、決勝戦の盛り上がりに欠ける――と言い出したのである。
1.01倍程度のオッズで構わないから、もう一度トトカルチョ・チケットの購入を受け付けてほしいという要望が、大会主催者であるアテナに提出されたのだった。

そのクレーム対応協議のために急遽 設けられた休憩時間。
「しかし、意外なことになったな」
ハーデスのサービスで今大会の選手・観客たちに解放されたエリシオンの園で、紫龍は二人の決勝進出者をまじまじと見詰め、言った。
称賛ともあざけりともつかない仲間の感嘆に、氷河が渋面を作る。

こんな馬鹿げた勝負で決勝進出を果たしても自慢にはならない。
むしろ屈辱だと、正直、氷河は紫龍に言いたかった。
が、なにしろ、その屈辱に甘んじている もう一人の人物が瞬とあっては、氷河も迂闊なことは言えなかったのである。
万一 瞬が自らの勝利を喜んでいた場合のことを考えて、彼は用心深く口をつぐむことになった。

「でも、これは さすがに氷河が勝つだろ。瞬なんて、最初から笑ってるようなもんだし」
瞬からもらった100円をシャカの優勝に賭けていた星矢が、もはやただの紙切れになってしまったトトカルチョ・チケットをくしゃりと丸めながら、決勝進出を果たしてしまった仲間に言う。

星矢が彼の100円を託した乙女座バルゴのシャカは、射手座の黄金聖闘士に敗北を喫していた。
乙女座の黄金聖闘士は、両眼を閉じて同僚との勝負に挑んだのだが、そのために研ぎ澄まされた彼の第六感 及び 阿頼耶識ことセブンセンシズが、アイオロスの“今時バンダナ”な風体を視覚で捉えるより明瞭に察知してしまい大爆笑。
かくして、乙女座バルゴのシャカは準々決勝で敗退してしまったのである。

紫龍が賭けていたのはサガで、彼はムウの「私の眉のない顔を想像してみてください」というテレパシーをまともに受信してしまったのが命取り。
かつてはアテナの殺害を企み、聖域支配を企てていたほどの男も、想像の中の眉なしムウの姿に他愛なく破れ去ったのだった。
ちなみに、サガに勝利した牡羊座アリエスのムウは、水瓶座アクエリアスのカミュの割れ眉に準々決勝で敗北している。

自分の戦いは済み、100円を賭けていた選手の敗退も確認済み。
すっかり緊張感が失せてしまっている星矢に、氷河は不機嫌そうに呟いた。
「瞬はクールだぞ」
「まだ、そんなこと言ってんのか。その根拠は何だよ」

星矢に問われた氷河が、その答えをためらう。
瞬が困惑したような視線を自分に向けていることに気付きさえしなかったら、彼は彼の主張の根拠を仲間に披露するようなことはしなかっただろう。
だが、氷河の言葉に戸惑い、不安げでさえある瞬の眼差し――。
言わずにいても瞬を悩ませるだけだと判断し、氷河は観念したように口を開いた。






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