「ゆ……夕べのうちに行くとこまで行ったって、それっていったいどういうことだよ! あの抜け作の氷河がどうやって……!」
瞬が、その事実を律儀に仲間たちに報告してきたのは、これまで星矢が仲間のためにあれこれと骨を折ってくれていたことを知っていたからだったろう。

「ぼ……僕だって、まさかあんなことになるなんて思ってなかったんだよ! でも、夕べの氷河はこれまでの氷河とは まるで別人みたいに素早くて躊躇がなくて、気がついた時には、僕、もう――」
もう あとにはひけない状況に追い込まれていたのか、既にその身に氷河を受け入れてしまっていたのか、あるいはすべてが終わってしまっていたのか――。
いずれにしても、夕べ瞬は その身体を氷河のものにさせられてしまったらしい。
急転直下のこの展開に、星矢は呆れて二の句が継げずにいた。

そんな星矢に、紫龍が嫌そうな顔で言う。
「もしかしたら、昨日までの氷河の間抜け振りは、一足飛びにそこにいくための策略だったんじゃないか? そのための阿呆の振りだったのでは――」
「じゃ……じゃあ、間抜けだったのは氷河じゃなく、奴のためにあれこれ気を揉んでいた俺の方だったってのかよ!」

星矢の憤りは至極当然のことである。
瞬は慌てて、この仲間思いの仲間をなだめ始めた。
「そ……そんなことないよ! 氷河はきっと、星矢がいろいろ気遣ってくれたから、勇気を持てたんだよ。氷河、夕べはちゃんと好きだって言ってくれたし、キスもしてくれたし、僕はすごく気持ちよくて嬉しくて――みんな星矢のおかげだよ……!」

懸命に仲間をなだめていたシュンの頬は徐々に紅潮し、最後に瞬は耳たぶまでを赤く染めて、恥ずかしそうに顔を伏せてしまった。
どうやら瞬は昨夜、氷河によって随分いい気持ちにさせられてしまったらしい。
そうして、瞬に慰められれば慰められるだけ、星矢の心は空しさに包まれることになったのである。

「白鳥座って、ゼウスの化身の星座なんだよなー」
星矢が再び、その事実を呟く。
紫龍は渋い顔で、星矢に頷き返した。
「ゼウスは好色で、好きな相手をものにするために あれこれ頭のまわる狡猾な男で」

瞬が申し訳なさそうな態度を示しながらも、あまりに嬉しそうにしているので、氷河を責める気にはならないのだが、紫龍と星矢はどうにも割り切れない思いを消すことができなかった。
「瞬がいいって言うなら、俺も別にそれでいいけどさー……」

星矢はつい、窓の向こうにある、今は星の見えない真夏の青空を遠い目で見詰めることになってしまったのである。
どうやら、真正面から『好きだ』と告げることだけが、好意の伝え方ではないらしい。
そして、人の価値観は人それぞれであり、恋の成就の方法もまた、ただ一つだけではないようだった。






Fin.






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