ある日、いつもならシュンがやってくる時刻に、シュンではない客人がヒョウガに面会を求めてきた。
その貧しげな様子から、ヒョウガは最初彼を他の領地から税を逃れてやってきた物乞いかと思ったのである。
ヒョウガの許にそういう者たちが庇護を求めてやってくることは しばしばあることだったので、ヒョウガは、その男に特に問題がないようだったら、これまでそうしてきたように、彼をスキュティアの小作人として受け入れてやるつもりだった。

少し遅れて、シュンの乗った馬がスキュティアの館の庭に入ってくる。
シュンの姿を認めると、ヒョウガは我知らず笑顔になった。
さっさとこの仕事を片付けてしまおうと考え、問題の男に向き直る。
男は館の庭先で ヒョウガの前に跪くようにしてうずくまり、一言も口をきかない。
ヒョウガがその男の様子が尋常でないことに気付くのと、馬を下りたシュンが、
「あの……お身体の具合いがお悪いんですか?」
と言って、その男の背に手をかけたのが、ほぼ同時だった。

シュンが、びくりと身体を震わせて、彼に触れていた手を引く。
「ヒョウガ! この人、毒を塗った短剣を持ってます!」
「なにっ」
シュンの鋭い声が合図だったように、うずくまっていた男が剣を振りかざしてヒョウガに飛びかかろうとする。
だが、彼が その身体を完全に起こしきる前に、彼の剣はシュンの手によって叩き落とされていた。
武器を失った男の手は すぐにヒョウガに掴みあげられ、騒ぎを聞きつけたセイヤたちがその場に駆けつけた時には、既に捕り物劇は終わってしまっていたのである。






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