「ひなたぼっこ? どうしてこんなとこに一人だけでいるの?」 小春日和の城戸邸の庭。 まだ緑の色を保っている下草の上、やわらかい陽だまりの中に、昨日この邸に連れてこられたばかりの金髪の子供が、両足を投げ出すようにして座り込んでいる。 彼は何をするでもなく――しいて言うなら、すっかり高さを増した秋の空の向こうにある何かを、ぼんやりと視界に映しているようだった。 「……」 問われたことには答えず、彼がその視線をゆっくりと瞬の上に運んでくる。 彼の瞳は、ほんの2ヶ月ほど前、この庭の上に広がっていた夏の空と同じ色をしていた。 一点の曇りもないその青さに、瞬は一瞬 息を呑んだのである。 「あ、僕、瞬っていうんだ。君は氷河っていうんでしょ。辰巳さんが、ロシアから来た子だって言ってた」 「……」 「みんなのとこに行って、みんなと一緒に遊ぼうよ。ロシアってどんなとこ? どこにあるの? ロシアの遊び、僕たちに教えてくれる?」 「……」 瞬が何を話しかけても、精一杯の笑顔を作っても、氷河は口をへの字に結んで沈黙を保ったままである。 瞳は無垢に澄んでいたが、その瞳には意思的な強い光が宿っており、瞬には、彼が物怖じするタイプの子供には見えなかった。 その時になって、瞬は初めて、ある可能性に気付いたのである。 「もしかして、氷河は日本語がわからないの?」 おそらく瞬に問われたことの意味がわかったからではなく、瞬が困ったような顔をしたから――氷河は、更にきつく唇を引き結び、俯いた。 その様子があまりに悔しそうだったので、彼は、彼の仲間たちが使う言葉を理解したいと思ってくれているのだと、瞬は確信したのである。 陽だまりの中に一人きりで座り込んでいる氷河に、瞬は手を差し延べた。 瞬も、たった一人で言葉も通じない国にやってきた彼を、彼にわかる言葉で慰め励ますことができたならどんなにいいだろうと思ったから。 |