私は、彼の部屋を出て、そして そのまま彼の屋敷の外に出ました。
ご主人様が私と共に死を覚悟し、彼に その命を拾われてから2年。
いつのまにか日が暮れた空からは、あの時と同じように白い雪が降り始めていました。
白い雪――。
2年前には、それは汚れなき絶望の純白でした。
今夜のそれは、希望と幸福の純白です。
温かく美しく白い雪は私の胸の内に静かに降り積もり、私の胸を埋め尽くしていきました。

私の寿命はもう尽きかけています。
今まで生きていられたのが自分でも不思議でした。
私は、ご主人様の身が心配で死ねなかった。
ご主人様を悲しませたくないので死ねなかった。
でも今ならもう、ご主人様が泣いても彼が慰めてくれるでしょう。

彼の屋敷を出た私は あの教会に向かいました。
2年前、ご主人様が私に一緒に死のうと言ってくれた、あの小さな教会へ。
ひとりで神の御許に行くために。

ご主人様は、ご主人様が貧しかった時、誰も自分を愛してくれなかったと言っていました。
ご主人様は、いつもご主人様の傍らに、ご主人様を愛しているものがいたことを、知らなかったのでしょう。
その愛に気付いてほしいと、私はいつも思っていましたが、気付かれぬままでいてよかったと、今では思います。
その方が、ご主人様の悲しみは深いものにならないでしょうから。

そう。それはご主人様には知られぬままでいた方がいいことです。
私は、不器用で可愛い私のご主人様を、心から愛していました。






Fin.






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