「俺たちは、瞬を生き返らせるには、おまえを瞬の側に連れてくるしかないと思った。だが、どうしても連絡がつかなかったから、こちらから出向いてきたというわけだ。今までどこにいた」
「……」
言えるわけがない。
自暴自棄になって、瞬の今の男たちを殺すことを夢想しながら、狂気のように白い世界をふらついていた――なんてことは。
が、俺が言わなくても、奴等はおおよそのところは察しているようだった。
家族以上の絆で結ばれた仲間というものは、厄介なものだ。

「僕は氷河と一緒にいたかった。でも、決めるのは氷河なんだから、氷河の気持ちを無視することはできないから、僕は待つことしかできないんだと思ってた。だけど、星矢と紫龍が――だからって僕が僕の心を殺す必要はないだろうって言ってくれて、だから、あの……ここに来たの」
瞬の声――ためらいがちに甘い瞬の声。
目眩いがする。
瞬は、それでも俺を許してくれるというのか?
こんな、自分勝手で、無慈悲で、我儘で、馬鹿な俺を?

「おまえに会いに行くって決めてから、瞬は見違えるほど明るくなってさ。調子に乗って俺にキスし返してくるくらい。おまえがいつまでもぐずぐずしてると、俺だってその気になるぞ」
なかなか煮え切らない俺を、星矢が焚きつけてくる。
同時に、紫龍が、瞬を椅子から立ち上がらせ、その背に手を添えて、俺の前に押しだした。

「僕は氷河と一緒にいたい。いつも一緒にいたい。離れているのはもう嫌」
瞬の瞳――泣いているように潤んだ瞬の瞳。
この瞳に永遠に映っていたい。
それが叶わなかったら、おまえは死んでいるも同じだと、もう一人の俺が 俺に決意を促してくる。
俺の心と身体はそれを求めている。
それは、他ならぬ俺自身がいちばんよくわかっていた。

それでも――自分がどれだけ愚かな男なのかということを自覚している俺は、この瞬を抱きしめ返す資格が自分にあるのだろうかと迷った――迷わないわけにはいかなかった。
迷って――だが、迷い続けていることに耐えられなくなって、俺は結局瞬を抱きしめてしまっていた。
強く、瞬が壊れてしまうのではないかと思うくらい強く。
瞬が、俺の背に腕をまわしてくる。

自分のプライドも、愚かさも、そんなものは何もかもどうでもいいと思った。
瞬のために――瞬がそれを望むのなら――望んでくれるのなら、俺は瞬の望みを叶えたかった。
瞬を抱きしめた途端に、俺の故郷は、母の眠る北の海ではなく、仲間たちと暮らした城戸邸でもなく、瞬のいるところだとわかった。
この温かく やわらかな生き物。
健気で優しい人間。
俺の瞬が、瞬その人が、俺の帰るべきところなのだと、俺は全身全霊で理解し、感じた。


騒ぎの落着を見定めた星矢は、まもなく難民キャンプに帰る予定でいる。
今回は、紫龍も同行するつもりらしい。
聖闘士でなくなっても戦うことはできるだろうと、奴等は笑って俺に言った。

俺は、俺の生活基盤をどうするかをこれから考えようと思っている。
奴等と共に行くか、シベリアでの調査団の仕事を続けるか。
瞬は、暑いのも寒いのも平気だと言ってくれた。

聖闘士としてではなく一人の人間として、俺は、これから俺が為すべきことを見付け、始めるつもりだ。
何よりもまず、瞬を本当に愛することから。






Fin.






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