「シュンちゃん。怪我はしていないんでしょう? 出てきて無事な姿を私に見せてちょうだい」
帰宅するなり部屋に閉じこもってしまった弟を心配して、エスメラルダは何度もシュンの部屋のドアをノックしたのだが、結局それは徒労に終わった。
「今朝はあんなに張り切っていたのに、いったいどうしたっていうの……。公爵様と何かあったのかしら……」

養父からおおよその事情は聞いていたので、シュンが自省のために自らを部屋の中に閉じ込めているということも考えられたが、いつものシュンは自分のことで家族に心配をかけるようなことをする子ではなかった。
いったい、英国屈指の(だが、破産しかけた)公爵家の当主とシュンの間に何があったのか。
気掛かりを残しながらも居間に戻ったエスメラルダの許に、一通の手紙が届けられていた。

明日会うために時間を割いてほしいという申し出は、立ち消えになった彼女の縁談の相手――身を挺してシュンを庇った人物からのものだった。
偽者を仕立てた自分が彼に会えば、いろいろと不都合が生じかねない。
エスメラルダは、もちろんヒョウガからの会談の申し出を断ろうと考えたのだが、手紙の末尾に添えられた『シュンのことで』という一文が、彼女の考えを変えた。
シュンがこれほど落ち込んでいる理由が、手紙の主に会えばわかるかもしれない。
そう考えて、エスメラルダは、使いの者に承諾の返事を託したのである。






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