「CD第二弾は、やはり無理のようね。せめてもう1枚ミリオンセラーを――と思っていたんだけど、氷河はもうピアノを弾く必要はなさそうだわ」
庭から寄り添って戻ってきた二人の姿を、ラウンジの窓から見やり、沙織が心底から残念そうに呟く。

しかし、星矢は、沙織の落胆にむしろ安堵していたのである。
作曲家の氷河などというものは、想像を絶して不気味なだけだし、せっかくの見事な大団円を余計な“音”にかきまわされたくないとも、星矢は思っていたのだ。
たった1枚の(心のこもった)CDで始まった騒動は一件落着、見事な大団円を迎えた――と、星矢はその時には思っていたのである。

ピアノの代わりに瞬という稀有な楽器を手に入れた氷河が、その夜から毎晩 熱心な演奏活動を始め、部屋の壁どころか時空をも超える瞬のなやましい小宇宙が、連日彼の安眠を妨害することになろうなどとは、その時星矢は考えてもいなかった。






Fin.






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