「私は信じているわ。瞬があらゆる困難を乗り越えて、その夢を実現させることを」 アテナは、この成り行きに大いに満足しているらしい。 氷河と瞬の姿がラウンジのドアの向こうに消えると、彼女は、星矢にとも紫龍にともなく、確信に満ちた口調で そう断言した。 「それは俺も信じないわけではありませんが、問題は氷河がうまく瞬の誘い受けに乗れるかどうかでしょうね」 それぞれの夢を叶えるために、再び新たな一歩を踏み出した、二人のアテナの聖闘士たち。 見ようによっては それは、実に感動的な場面だったのだが、沙織が期待してるコトがコトだけに、星矢と紫龍は この現実に心から感動することができなかったのである。 「沙織さんはつくづく、諦めの悪い人間が好きなようですね」 半分は嫌味のつもりで告げた紫龍の言葉に、沙織は悪びれた様子もなく首肯した。 「その通りよ。決して実現不可能ではない夢を、些細な障害のせいで諦めるなんて、愚か者のすることだわ。まして、新年から挫折感いっぱいでどうするの。あなたは来年の今日には気象予報士の資格を取っているし、星矢のおやつ代は今日から300円以内におさまると、私は信じているわ」 「へっ?」 真顔で言うアテナに、星矢は――星矢もまた――真顔で青ざめることになったのである。 沙織が、ペガサス座の聖闘士に課せられた“今年の目標”を“実現可能な夢”と信じているらしいことを知らされて。 「沙織さん! アテナ! バナナはおやつに入らないんだよな!」 「入るわよ。そんなの考えるまでもない常識でしょう」 「そんなーっ!」 星矢の絶望の叫びが、まだ松の内も明けていない城戸邸ラウンジに響き渡る。 だが、沙織は星矢の抗議に取り合うつもりは全くないようだった。 女神アテナの辞書に『怠惰』『停滞』『敗北』の単語は載っていない。 そして、アテナにとって、新年とは、人間が 他のどんな日にも増して、意欲的に、向上心をもって、新たな勝利を目指す決意の時でなければならないのだった。 Fin.
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